事業譲渡の在庫評価はどう決まる?買い手候補が見る4つの基準と計算方法、譲渡前の準備を解説
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- M&Aの進め方
公開日:2026.09.29
2026.09.29
更新日:2026.09.29
2026.09.29
事業譲渡の在庫は帳簿価額ではなく時価で評価されます。買い手候補が見る4つの基準、正味売却価額を基準とする計算方法、評価額を下げないための譲渡前の準備、引き継ぐ範囲と精算の方法、在庫にかかる税金を売り手視点で解説します。

倉庫にある在庫は、帳簿の金額どおりに買い取ってもらえるのか。事業譲渡では、在庫も譲渡対象の資産として対価に含まれます。ただし基準になるのは帳簿価額ではなく、売れる状態かどうかを踏まえた時価です。滞留在庫が多ければ、想定より低く評価されることがあります。
本記事では、買い手候補が在庫を評価する4つの基準と計算方法を示したうえで、評価額を下げないための準備を解説します。あわせて、引き継ぐ範囲と精算の方法、在庫にかかる税金を示します。
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事業譲渡の在庫は帳簿価額ではなく時価で評価されて対価に含まれる
事業譲渡では、譲渡対象の資産を個別に指定して移転します。棚卸資産も対象に含めれば、対価の一部になります。
対価の算定で基準となるのは、帳簿価額ではありません。買い手候補が引き継いだ後に販売できるかどうかを踏まえた金額で決まります。
帳簿価額との差が開きやすいのは、評価方法の届出を行っていない会社です。法人税法上、届出をしなかった場合は最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法が適用されるため(法人税法施行令第31条)、直近の仕入単価で評価された金額が帳簿に載ります。
まずは直近の棚卸表を取り出し、品目別の数量と帳簿単価を確認します。
事業譲渡の基本については、下記で詳しく解説しています。
事業譲渡とは何か?オーナー経営者が知っておくべき基本と実務ポイント
買い手候補が在庫を評価するときに見る4つの基準
評価は、現物と数値の両面から行われます。見られる基準は以下の4つです。
- 実地棚卸で確認する帳簿と実在庫の一致
- 期限・型落ち・破損の有無で判断する販売可能な状態
- 回転期間から見た滞留の有無
- 取得原価と現在の仕入価格・販売価格との差
それぞれを順に解説します。
実地棚卸で確認する帳簿と実在庫の一致
最初に確認されるのが、帳簿と現物の一致です。 数が合わなければ、帳簿の信頼性が疑われます。
差異の原因は次のとおりです。
- 入出庫の記録漏れ
- 返品や廃棄の未処理
- 拠点間の移動が未反映
検討の段階で買い手候補が自ら棚卸を行う例は多くありません。売り手の棚卸表と受払記録を買い手候補が検証する流れです。
早い段階で自社で棚卸を行い、差異の原因を把握します。
期限・型落ち・破損の有無で判断する販売可能な状態
次に見られるのが、売れる状態かどうかです。 数量があっても、販売できなければ価値は生じません。
確認される項目は次のとおりです。
- 賞味期限や使用期限までの残存期間
- 型落ちやモデルチェンジの有無
- 汚損、破損、変色の状態
- 包装やラベルの表示が現行基準に合っているか
現物を見れば判断できる項目です。品目ごとに状態を区分した一覧を用意します。
回転期間から見た滞留の有無
動きのない在庫は、滞留として扱われます。 長く倉庫にある商品は、今後も売れない可能性が高いと見られるためです。
判定に使われるのは、品目ごとの回転期間や最終出庫日です。一定期間動いていない品目が抽出されます。
自社で滞留の基準を決め、該当する品目と金額を把握します。抽出した一覧を、交渉前に作成します。
取得原価と現在の仕入価格・販売価格との差
仕入単価の変動も、評価に影響します。 過去に高く仕入れた在庫は、現在の相場より帳簿価額が高くなります。
比較される項目は次のとおりです。
- 帳簿上の取得原価
- 現在の仕入価格
- 直近の販売実績価格
販売価格が取得原価を下回っていれば、評価減の対象になります。主要品目について、3つの価格を並べた表を作成します。
デューデリジェンスで確認される範囲については、下記で解説しています。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や流れ、売り手側のポイントを解説
在庫の評価額を計算する方法
計算には、税務上の方法と対価算定の方法があります。押さえる点は以下の3つです。
- 帳簿上は原価法か低価法で計算し届出がなければ最終仕入原価法になる
- 対価を決めるときは正味売却価額を基準に見積もる
- 滞留在庫や不良在庫は評価減や評価損として差し引かれる
それぞれを順に解説します。
帳簿上は原価法か低価法で計算し届出がなければ最終仕入原価法になる
税務上の評価方法は、届出によって決まります。 原価法と低価法があり、原価法には個別法や先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法が含まれます。
届出をしていなければ、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法が適用されます。直近の仕入単価で評価された金額が帳簿に載る形です。自社が届出をしているかを、顧問税理士へ確認します。
対価を決めるときは正味売却価額を基準に見積もる
対価の算定では、売れる金額が基準になります。 国税庁は棚卸資産の期末時価の算定について、売却するものとした場合の売却可能価額から、見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除した正味売却価額によるとしています。
売れる価格から、売るためにかかる費用を差し引いた金額が基準です。品目ごとに販売見込価格と販売経費を見積もり、算定の根拠を残します。
滞留在庫や不良在庫は評価減や評価損として差し引かれる
売れない在庫は、対価から差し引かれます。 買い手候補にとって価値がないためです。
差し引きの対象になりやすいのは次のとおりです。
- 販売実績が長期間ない品目
- 期限切れや期限が近い品目
- 破損や汚損がある品目
全額が差し引かれるとは限らず、処分見込価格で評価される場合もあります。該当する品目と金額を先に把握し、交渉の前提として示します。
評価額を下げないために売り手が譲渡前に行う準備
準備次第で、評価は変わります。行う準備は以下の4つです。
- 実地棚卸を行って帳簿と実在庫を一致させる
- 滞留・不良在庫を処分するか評価減を先に計上するかを決める
- 仕入単価と販売実績の資料をそろえる
- 基準日から譲渡日までの在庫変動の扱いを決めておく
それぞれを順に解説します。
実地棚卸を行って帳簿と実在庫を一致させる
出発点は、数を合わせることです。 差異があれば、買い手候補は在庫全体を疑いやすくなります。
実施の手順は次のとおりです。
- 全品目を対象に実地棚卸を行う
- 帳簿との差異を品目ごとに一覧化する
- 差異の原因を特定し、帳簿を修正する
交渉が始まってから差異が判明すれば、印象を損ないます。着手の段階で棚卸を済ませます。
売却前の準備全般(磨き上げ)については、下記で詳しく解説しています。
M&Aの磨き上げとは?売却価格を高める5つの領域と進め方を解説
売却前に押さえておきたい注意点は、資料でも確認できます。無料でダウンロードできます。
滞留・不良在庫を処分するか評価減を先に計上するかを決める
売れない在庫は、扱いを決めます。 抱えたまま交渉に入れば、買い手候補から一方的に差し引かれやすくなります。
選択肢は次のとおりです。
- 処分して在庫から外す
- 評価減を計上して帳簿価額を下げる
- 現状のまま開示し、交渉で扱いを決める
処分すれば損失が出ますが、残る在庫の評価は明確になります。金額の大きい品目から、扱いを税理士と検討します。
仕入単価と販売実績の資料をそろえる
説明の根拠になるのが、価格の資料です。 買い手候補の評価に反論するには、自社の数値が要ります。
そろえる資料は次のとおりです。
- 品目別の仕入単価と直近の仕入日
- 品目別の販売実績価格と販売数量
- 値引き販売の実績と理由
販売実績があれば、売れる在庫であることを示せます。主要品目について、直近12か月の販売実績を集計します。
基準日から譲渡日までの在庫変動の扱いを決めておく
在庫は日々動きます。 評価の基準日と引き渡しの日が異なれば、数量も金額も変わります。
決めておく事項は次のとおりです。
- 評価の基準日をいつに置くか
- 基準日以降の仕入と販売の扱い
- 譲渡日に再度棚卸を行うか
取り決めがなければ、引き渡し時に争いになりやすくなります。基準日と精算の方法を、契約交渉の早い段階で提示します。
在庫を引き継ぐ範囲と譲渡日の精算方法
範囲と精算は、契約で定めます。在庫は日々動くため、定めがなければ引き渡し時に争いになりやすくなります。押さえる点は以下の3つです。
- 在庫は品目単位で引き継ぐ範囲を選べる
- 基準日の評価額と譲渡日の実在庫との差額を精算する条項を入れる
- 評価方法と単価の根拠を契約書の別紙に記載する
それぞれを順に解説します。
在庫は品目単位で引き継ぐ範囲を選べる
事業譲渡では、対象を個別に指定できます。 在庫も、品目や区分ごとに引き継ぐかどうかを決められます。
区分の考え方は次のとおりです。
- 買い手候補が継続して扱う商品は引き継ぐ
- 型落ちや取扱終了の商品は売り手に残す
- 原材料と完成品で扱いを分ける
残した在庫は、売り手が自ら処分します。処分にかかる費用と時間も、判断の材料に含めます。
基準日の評価額と譲渡日の実在庫との差額を精算する条項を入れる
基準日と譲渡日のずれは、精算で調整します。 事業を続けている以上、在庫は変動するためです。
条項に定める事項は次のとおりです。
- 譲渡日に棚卸を行うかどうか
- 差額の計算方法と単価の適用
- 精算金の支払期限
精算の仕組みがなければ、在庫が減った分だけ買い手候補が損をします。逆に増えていれば、売り手が追加の対価を受け取れます。
条項案を契約書の交渉で提示します。
評価方法と単価の根拠を契約書の別紙に記載する
単価の根拠は、書面に残します。 品目数が多ければ、後から算定過程を再現できません。
別紙に記載する項目は次のとおりです。
- 品目名、数量、単価、金額
- 単価の算定方法(仕入単価か正味売却価額か)
- 評価減を行った品目と減額の理由
税務調査で説明を求められる場合もあります。別紙を契約書に添付し、双方で保管します。
事業譲渡契約を含む最終契約で確認したい項目は、弁護士監修のチェックリストにまとめています。
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在庫の譲渡にかかる税金
在庫の移転には、複数の税金が関わります。押さえる点は以下の3つです。
- 棚卸資産は消費税の課税資産で対価に区分がなければ時価で按分される
- 帳簿価額との差額は法人税の譲渡損益になる
- 譲渡前に計上した評価損は損金算入の要件を満たす必要がある
それぞれを順に解説します。
棚卸資産は消費税の課税資産で対価に区分がなければ時価で按分される
在庫の譲渡には、消費税がかかります。 国税庁が非課税となる取引として挙げる土地や有価証券の譲渡に、棚卸資産は含まれないためです。
対価に資産ごとの区分がなければ、課税資産と非課税資産の対価を合理的に区分する必要があります。国税庁は、営業の譲渡をした場合の対価の額について質疑応答事例を公表しています。
在庫の対価を別建てで契約書に記載し、消費税の計算根拠を残します。
帳簿価額との差額は法人税の譲渡損益になる
対価と帳簿価額の差は、損益として計上されます。 帳簿価額を上回る価格で譲渡すれば利益が生じ、下回れば損失が生じます。
滞留在庫を低い価格で引き継いでもらえば、損失として計上されます。事業譲渡益と通算され、最終的な課税所得が決まります。
在庫の帳簿価額と対価の見込額を並べ、損益の見込みを税理士と試算します。
会社売却にかかる税金の計算については、下記で詳しく解説しています。
会社売却後にかかる税金は?計算方法や確定申告、税引後手取りを増やす対策を解説
譲渡前に計上した評価損は損金算入の要件を満たす必要がある
評価損の計上には、条件があります。 帳簿価額を下げれば損金になるわけではありません。
法人税法第33条第2項および法人税法施行令第68条は、棚卸資産の評価損を損金に算入できる場合を限定しています。単に時価が下落したというだけでは、要件を満たさない場合があります。
要件の判定は個別の事情によります。評価損の計上を検討する場合は、事前に税理士へ確認します。
事業譲渡の在庫評価に関するよくある質問
事業譲渡の在庫評価について、相談の現場で多く寄せられる質問を3つ取り上げます。無償で引き継いでもらった場合の扱い、賞味期限や使用期限が近い在庫、在庫とのれんの計算の関係の3点です。
在庫を無償で引き継いでもらった場合はどうなりますか?
法人税では時価による譲渡があったものとして扱われ、寄附金の問題が生じる可能性があります。消費税にも、法人が役員に無償で譲渡した場合などのみなし譲渡の規定があります(消費税法第4条第5項)。無償や著しく低い価額での譲渡は、事前に税理士へ確認します。
賞味期限や使用期限が近い在庫は買い取ってもらえますか?
交渉次第です。買い手候補が引き継いだ後に販売できる見込みがあれば、評価減を伴う形で引き継がれます。販売が困難であれば、対象から外して売り手が処分する扱いになります。期限別に数量と金額を一覧化し、交渉の材料として提示します。
在庫の評価とのれんの評価は別に計算されますか?
別に計算されます。在庫は個別の資産として評価され、のれんは対価の総額から個別資産の評価額を差し引いた部分にあたります。在庫の評価額が上がれば、のれんは小さくなる関係です。契約書では、在庫とのれんの対価を分けて記載します。
のれんの会計処理については、下記で解説しています。
のれんの会計処理とは?3つの仕訳と日本基準・IFRSの違いを解説
まとめ
事業譲渡の在庫は、帳簿価額ではなく売れる状態かどうかを踏まえた時価で評価されます。滞留や不良の在庫が多ければ、対価は想定より低くなります。
要点は以下のとおりです。
- 買い手候補は棚卸の結果、販売可能な状態、滞留の有無、価格差の4点を見る
- 対価の算定では、売却可能価額から販売経費を差し引いた正味売却価額が基準になる
- 評価方法の届出をしていなければ、帳簿は最終仕入原価法で評価されている
- 基準日と譲渡日のずれは、精算条項で調整する
- 在庫の対価は別建てで契約書に記載し、消費税の計算根拠を残す
準備の出発点は、実地棚卸です。まずは帳簿と現物を突き合わせ、差異と滞留の金額を把握してください。
事業譲渡の進め方と契約で決める事項は、こちらの資料でも確認できます。
【無料資料】オーナー経営者がM&A仲介会社から事業売却の提案を受けたら、弁護士と一緒に最初に読むべき 事業承継・M&A完全ガイド
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