事業承継税制の要件とは?会社・後継者・先代の3区分と満たせない時の選択肢を解説
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- 事業承継の基礎
公開日:2026.07.30
2026.07.30
更新日:2026.07.30
2026.07.30
事業承継税制を使いたいものの、要件が複雑で自社が当てはまるのか分からず困っていませんか。事業承継税制は、自社株の贈与税・相続税の納税が猶予される強力な制度ですが、会社・先代経営者・後継者それぞれに要件があり、承継後も守り続けるべき条件があります。本記事では、特例措置の要件を3つの区分で整理し、猶予の継続・取消・免除の条件、手続きの5ステップ、そして要件を満たせない場合の選択肢までを解説します。読み終えたときには、自社が制度を使えるか、使うべきかを判断する材料がそろいます。
事業承継の選択肢の全体像については、以下の記事でも詳しく解説しています。
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事業承継税制とは?納税猶予と免除で税負担を抑える制度
事業承継税制とは、後継者が先代経営者などから自社株(非上場株式等)を贈与・相続で取得した際、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることで、株式にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。猶予された税額は、後継者の死亡やさらに次の後継者への承継など一定の場合に免除されます。自社株の評価額が高いほど、納税資金の工面が承継の壁になりがちです。特に、時限措置である特例措置では、対象株式の全部について納税が全額猶予されるため、効果は絶大です。ただし、要件を外れると利子税とともに納付義務が生じます。入口の要件と、承継後に守る要件の両方の理解が欠かせません。会社の株式を対象にした法人版のほか、個人事業主の事業用資産を対象にした個人版もあります。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
個人事業主の承継については、以下の記事でも詳しく解説しています。
一般措置と特例措置の違い
法人版には恒久の「一般措置」と時限の「特例措置」があり、主な違いは対象株式・猶予割合・後継者数です。一般措置は対象株式や猶予割合に上限がある一方、特例措置は対象株式の全部で納税が全額猶予されます。後継者も一般措置の1人に対し、特例措置は最大3人まで認められます。雇用維持要件も、特例措置では報告により柔軟化されています。利用するなら特例措置が基本の選択肢です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
主な要件
特例措置の入口の要件は、立場ごとに次の3つの区分で整理できます。一つでも欠けると認定は受けられません。入口の段階で全区分を照合する作業が、認定準備の確かな第一歩になります。
- 対象会社の要件
- 先代経営者の要件
- 後継者の要件
それぞれを順に解説します。
対象会社の要件
対象になる会社は、中小企業者に該当する非上場会社であることが大前提です。主な要件は次のとおりです。
- 中小企業者であること(業種ごとの資本金または従業員数の基準を満たすこと)
- 上場会社・風俗営業会社でないこと
- 常時使用する従業員が1人以上いること
- 資産管理会社(資産保有型会社・資産運用型会社)に該当しないこと
資産管理会社とは、有価証券や自ら使用しない不動産などの特定資産が総資産の70%以上を占める会社や、特定資産の運用収入が総収入の75%以上を占める会社です。オーナーとしては、自社の資産構成を直前期の決算書で確かめることが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
先代経営者の要件
先代経営者(贈与者・被相続人)の要件の中心は、代表権と議決権の保有実績です。主な要件は次のとおりです。
- 会社の代表権を有していたこと
- 贈与・相続の直前に、先代と同族関係者で総議決権数の50%超を保有し、かつ後継者を除いた中で筆頭株主であったこと
- 贈与の場合、贈与の時までに代表権を返上していること
代表権を返上すれば、有給の役員として会社に残ることはできます。名目だけの交代ではなく、実態として経営権を渡す姿勢が求められます。株主名簿と登記の整合を事前に確かめることが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
後継者の要件
後継者(受贈者・相続人)には、代表権・議決権・役員歴の要件があります。主な要件は次のとおりです。
- 承継時に会社の代表権を有すること(相続の場合は開始から5か月以内に代表者へ就任)
- 承継により、後継者と同族関係者で総議決権数の50%超を保有し、同族内で筆頭株主になること(後継者が複数の場合は各人が総議決権数の10%以上を保有)
- 贈与の場合、贈与の日に18歳以上で、贈与の直前に役員であること
- 相続の場合、原則として相続開始の直前に役員であること
贈与時の役員要件は、従来の「就任後3年以上」から令和7年度税制改正で見直されています。後継者への贈与による事業承継を検討している場合、後継者の役員登記を早めに済ませることが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
納税猶予の継続要件と取消・免除の条件
入口の要件を満たして認定を受けても、猶予を続けるには条件があります。猶予は「受けて終わり」ではなく、「守り続ける」性格の制度です。次の3つを押さえます。
- 承継後に満たし続ける要件
- 猶予が取り消される事由
- 猶予税額が免除される条件
それぞれを順に解説します。
承継後に満たし続ける要件
承継後は、後継者が代表者であり続け、猶予対象の株式を保有し続けることが基本の継続要件です。申告期限後5年間は、都道府県への年次報告書と税務署への継続届出書をいずれも年1回提出し、5年経過後は税務署への継続届出書を3年に1度提出し続けます。雇用については、5年間平均で承継時の8割の維持が求められますが、特例措置では下回っても理由を報告すれば猶予は継続されます。後継者としては、届出のスケジュール管理体制を承継時に整えることが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
猶予が取り消される事由
取消事由に該当すると、猶予されていた税額を利子税とともに納付する必要が生じます。代表的な事由は次のとおりです。
- 猶予対象の株式を譲渡した場合
- 後継者が代表権を失った場合(申告期限後5年以内)
- 会社が資産管理会社に該当することになった場合
- 年次報告書や継続届出書の提出を失念した場合
事業の実態が変わらなくても、手続きの失念だけで取消しになり得る点が怖いところです。後継者としては、専門家と組んで届出を仕組み化することが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
猶予税額が免除される条件
猶予された税額は、一定の事由が生じた時点で納付が免除されます。代表的な条件は、後継者(贈与税の場合は先代経営者)の死亡と、後継者が次の後継者へ事業承継税制を使って株式を贈与した場合です。つまり、猶予を受けたまま次の世代へ制度をつないでいけば、税負担は実質的に生じない設計になっています。経営環境の悪化などで会社を譲渡・解散する場合に、一定の要件の下で納付額が再計算・減免される仕組みもあります。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
メリットとデメリット
事業承継税制は効果の大きい制度ですが、負担も伴います。制度の性格上、恩恵と拘束は表裏一体です。両面を確かめてから使う判断が欠かせません。
- メリット
- デメリット
それぞれを順に解説します。
事業承継にかかる費用については、以下の記事でも詳しく解説しています。
メリット
最大のメリットは、自社株にかかる贈与税・相続税の納税が全額猶予され、要件を満たし続ければ実質的な負担なく承継できる点です。株価の高い会社では、承継時の税負担が数億円単位になる場合もあり、納税資金の借入れや株式の一部売却を迫られかねません。特例措置を使えば、資金流出を避けながら経営権を後継者に集中できます。免除までつなげば、世代交代のたびに生じていた税負担の連鎖を断てます。オーナー経営者としては、自社株の評価額が高いほど制度の効果が大きいと理解することが重要です。
デメリット
デメリットは、長期にわたる要件の維持と手続きの負担、そして経営の選択肢が狭まる点です。年次報告書・継続届出書の提出は長期間続き、失念すれば猶予は取り消されます。取消時には猶予税額に利子税が上乗せされるため、通常の納税より重くなる場合もあります。将来、M&Aによる売却や上場を選ぶと猶予が打ち切られるため、経営の自由度に制約がかかります。専門家への継続的な報酬も見込む必要があります。オーナー経営者としては、将来の出口戦略まで含めて利用の可否を判断することが重要です。
利用する手続きの流れ
特例措置は、次の5つのステップで利用します。期限のある手続きが多いため、逆算した準備が欠かせません。
- Step1. 特例承継計画を作成して提出する
- Step2. 代表者を交代し株式を贈与・相続する
- Step3. 都道府県知事の認定を申請する
- Step4. 税務署へ申告し担保を提供する
- Step5. 継続届出書を提出し続ける
それぞれを順に解説します。
Step1. 特例承継計画を作成して提出する
最初のステップは、特例承継計画の作成と都道府県への提出です。計画には後継者の氏名や承継までの経営見通しなどを記載し、認定経営革新等支援機関の所見の記載を受けます。提出期限は令和9年(2027年)9月30日です(令和8年度税制改正で延長)。承継時期が未定でも先に提出でき、後日の変更も可能です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
Step2. 代表者を交代し株式を贈与・相続する
次に、代表者を交代し、株式の贈与を実行します(相続の場合は相続の開始)。贈与では、先代が代表権を返上し、後継者が代表者に就任してから株式を渡します。特例措置の対象になるのは、令和9年(2027年)12月31日までに行われた贈与・相続です。計画の提出期限とは別の期限のため、混同しないよう注意が必要です。経営者としては、株価の動きも見ながら実行時期を設計することが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
Step3. 都道府県知事の認定を申請する
承継の実行後、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を申請します。申請窓口は、会社の主たる事務所を管轄する都道府県です。会社・先代・後継者の要件を満たしているかが審査され、認定書が交付されます。申請期限は贈与・相続の別に定められており、遅れると制度を使えません。必要書類の収集を承継実行前から進めることが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
Step4. 税務署へ申告し担保を提供する
認定書の写しを添えて、期限内に贈与税・相続税の申告を行い、猶予税額に見合う担保を提供します。担保には、猶予対象の非上場株式を担保に充てるのが一般的です。申告期限は通常の贈与税・相続税と同じため、認定手続きと並行した準備が求められます。税理士と申告スケジュールを共有しておくことが重要です。
Step5. 継続届出書を提出し続ける
申告後は、年次報告書(都道府県)と継続届出書(税務署)を年1回提出し、5年経過後は継続届出書を3年に1度提出し続けます。提出を怠ると、要件を満たしていても猶予が打ち切られます。承継はゴールではなく、猶予管理という長い運用の始まりです。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
M&Aを検討する場合の事業承継税制の注意点
会社の売却も視野に入れている場合、事業承継税制との相性には注意が必要です。押さえるべき点は次の3つです。
- 親族内や社内への承継が前提になる
- 納税猶予を受けた後にM&Aで株式を譲渡すると猶予が打ち切られる
- 後継者がいない場合はM&Aも選択肢になる
それぞれを順に解説します。
株式譲渡と贈与の税務については、以下の記事でも詳しく解説しています。
親族内や社内への承継が前提になる
事業承継税制は、後継者が株式を引き継いで経営を続けることを前提にした制度です。後継者は承継時に代表者となり、以後も代表権と株式を維持する必要があるため、制度の設計上、親族内承継や従業員承継と相性が良い仕組みになっています。第三者への売却で対価を得たいオーナーには、猶予制度を使う実益が乏しくなります。売却であれば、株式譲渡のタイミングで必要となる税金及びその資金の確保もほぼ完了するため、シンプルで自由度も高くなります。経営者としては、「誰に引き継ぐか」を先に決めてから税制を選ぶことが重要です。
納税猶予を受けた後にM&Aで株式を譲渡すると猶予が打ち切られる
猶予を受けた後に対象株式をM&Aで譲渡すると、取消事由に該当し、猶予税額と利子税の納付が必要になります。将来の売却益と、打ち切りで生じる納付額を比較しないまま売却へ進むと、想定外の資金負担に直面します。経営環境の悪化時には譲渡時の株価で税額を再計算する減免の仕組みもありますが、適用には要件があります。制度利用後の方針転換にはコストが伴うと考えるべきです。株式を引き続いた後継者としては、猶予期間中に売却の話が来たら、税額試算を先に行うことが重要です。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
後継者がいない場合はM&Aも選択肢になる
要件を満たす後継者がいない場合は、M&Aによる第三者承継が現実的な選択肢になります。事業承継税制は後継者の存在が大前提のため、候補が不在なら制度の土俵に乗れません。M&Aであれば、会社と雇用を残しながら、オーナーは株式の売却対価を受け取れます。個人保証の解除も交渉できます。無理に親族へ承継して要件維持に苦しむより、良い買い手に引き継ぐ方が会社のためになる場合もあります。オーナー経営者としては、税制とM&Aを並べて手取りと存続性を比較することが重要です。
売り手側FAによる売却の進め方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
事業承継税制の要件に関するよくある質問
最後に、事業承継税制の要件についてよく寄せられる質問に、結論から短く回答します。
実態要件とは何ですか?
資産管理会社に形式上該当する会社でも、事業実態があれば適用対象になり得るための要件です。後継者と生計を一にする親族以外の常時使用する従業員が5人以上いること、事務所などを所有または賃借していること、3年以上事業を継続していることなどが求められます。該当判定は専門家への確認が安全です。
資本金の要件はありますか?
あります。対象は中小企業者に限られ、業種ごとに資本金または従業員数の基準が定められています。たとえば製造業その他では、資本金3億円以下または従業員300人以下が基準です。資本金と従業員数のどちらか一方を満たせば中小企業者に該当します。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
従業員は何人必要ですか?
会社の要件として、常時使用する従業員が1人以上必要です。また、承継後は5年間平均で承継時の雇用の8割を維持する要件がありますが、特例措置では8割を下回っても、理由を記載した報告書を都道府県へ提出すれば猶予は継続されます。雇用の数え方は承継時の人数が基準になります。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
後継者は親族でなければ利用できませんか?
親族以外でも利用できます。特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象です。役員や従業員を後継者にする承継でも、代表権・議決権・役員歴などの要件を満たせば納税猶予を受けられます。
※参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
まとめ
事業承継税制(特例措置)の要件は、会社・先代経営者・後継者の3区分で整理でき、入口の要件と承継後に維持する要件の両方を満たして初めて効果を発揮します。本記事の要点は次のとおりです。
- 対象会社は中小企業者の非上場会社で、資産管理会社は原則対象外になる
- 先代は代表権の返上と議決権の保有実績、後継者は代表就任と筆頭株主化が求められる
- 承継後は届出の継続が必須で、株式譲渡や届出失念は猶予の打ち切りにつながる
- 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、承継の実行期限は令和9年12月31日になる
- 後継者がいない、将来の売却も考えたいという場合はM&Aとの比較が欠かせない
満たせるかと同じくらい、満たし続けられるかが大切な制度です。後継者の有無と出口の方針を整理し、税理士や売り手側の専門家と一緒に最適な承継の形を選んでください。
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