水産加工・卸業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介
公開日:2025.02.21
2025.02.21
更新日:2025.10.31
2025.10.31
昨今、水産加工・卸業界は市場規模が減少傾向にあり、廃業を防ぐためにM&A取引が活発に行われるようになっています。
また、水産加工・卸業界では、多くの企業で人材不足が深刻な問題となっており、M&Aが有効な解決の手段として注目されています。
では、具体的に水産加工・卸業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の水産加工・卸業界のM&A事情を解説します。さらに、水産加工・卸業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、M&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。
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水産加工・卸業界とは?業界の現状を解説

まず、水産加工・卸業界の動向として、市場規模と業界の課題を整理します。
M&Aを検討する際の前提知識となるため、ぜひ参考にしてください。
水産加工・卸業界の定義
水産加工・卸業界は、水産物を原料として冷凍品や干物、缶詰、惣菜などに加工し、卸売を通じて流通させる産業です。
漁業や養殖業で生産された魚介類を、食品メーカーや小売業に供給する中間機能を担っています。その結果、消費者が日常的に魚を安心して購入できる体制が整えられているといえるでしょう。
例えば、スーパーに並ぶ切り身やパック惣菜は、加工・卸の仕組みによって安定供給されています。さらに、この業界は国民の食生活を支えるだけでなく、地域の雇用や経済にも大きく貢献しています。
したがって、水産加工・卸業界は単なる食品産業の一部ではなく、生活インフラを支える重要な産業と位置づけられます。
水産加工・卸業界の動向
近年、水産加工・卸業界では国内の魚介類消費が減少傾向にある一方で、輸出拡大や健康志向商品の需要が高まっています。外食需要の減少やEC(電子商取引)の普及を背景に、販路の多様化が進みました。
その結果、家庭向けのBtoC市場が成長し、新たな販売機会が生まれています。たとえば、オンラインで冷凍魚や簡便調理品を購入できるサービスが需要拡大を後押ししています。
一方で、高齢化による人材不足や後継者不在など、経営を圧迫する課題も顕在化しています。今後は、変化する需要に柔軟に対応しつつ、持続可能な経営体制を築くことが求められるでしょう。
水産加工・卸業界の市場規模
近年の水産物流通では、卸売市場を介さない直接取引やオンライン販売が拡大しており、従来型の市場流通の割合は減少傾向にあります。
かつて全国で約600ヵ所あった水産物卸売市場は、統合や再編の進行により、現在は500ヵ所台で推移しています。特に中央市場や消費地市場では縮小傾向が続く一方で、産地市場の一部では活魚取引や冷凍設備の高度化が進み、地域流通の拠点として機能を維持しています。
また、水産加工品のうち食用加工品の生産量は1989年以降、全体として減少傾向にあります。水産加工品の国内市場規模は約9,600億円(2024年時点・富士経済調べ)とされています。長期的に生産量は減少しているものの、冷凍食品やねり製品は安定的に推移しており、健康志向や高タンパク食品としての需要を維持している状態です。
さらに、冷凍技術の進化によって生鮮冷凍水産物の品質が向上し、スーパーや外食産業での取扱量も増加しています。
このように、国内の水産物流通は「市場流通から直接流通へ」、「生鮮中心から高付加価値加工へ」と構造転換が進んでいます。今後は、加工・流通・販売が一体となったサプライチェーンの構築が成長の鍵を握るといえるでしょう。
サービス・運営形態の多様化
水産加工・卸業界では、従来の業務用卸売に加え、ECや家庭向け直販サービスなど多様な運営形態が広がっています。特に自社加工品をオンラインで販売するD2C(Direct to Consumer)モデルは、中小企業でも参入しやすい点が特徴です。
また、環境意識の高まりを背景に、未利用魚の活用やサステナブル認証水産物の取り扱いが拡大しています。消費者の健康志向や調理の簡便さを重視する傾向に合わせ、企業は複数の販売チャネルを組み合わせた戦略を展開しています。
このような多様化は業界の成長を後押しする一方で、変化に柔軟に対応できる企業ほど競争上の優位性を確保できるといえるでしょう。
高齢化社会の進展
日本の高齢化が進む中で、高齢者向け水産加工品市場は拡大しています。食べやすく嚥下しやすい加工品や少量パック商品など、実用性と健康面を両立した商品の需要が高まっています。
一方、若年層の魚離れにより、国内市場全体の縮小が懸念されます。ただし、高齢者層は購買力を持ち、健康を意識した食生活を楽しむ層も多い点は注目すべきです。
企業は、高齢者の体調や食習慣に合わせた商品企画を行い、販路や販売方法にも工夫を加える必要があります。高齢化の進展は市場構造を大きく変える要因であり、今後の業界成長を左右する重要なテーマとなるでしょう。
新型コロナウイルスの影響
コロナ禍では外食需要の減少により、業務用卸売が大きな打撃を受けました。その一方で、家庭向け冷凍魚や簡便調理品の需要が急拡大し、販路構成が大きく変化しました。
在宅時間の増加に伴い、家庭で調理しやすい商品の需要が高まり、消費者の購買行動が変化しました。現在は外食需要が回復傾向にありますが、オンライン注文と家庭消費を組み合わせるスタイルが定着しています。
その結果、ECと既存の卸売を融合させる戦略を導入する企業が増加し、実店舗や市場とデジタルを組み合わせたビジネスモデルが広がっています。今後もこの動きは継続するとみられます。
水産加工・卸業界のM&A動向とは?

水産加工・卸業界では、国内の水産物の消費量減少や海外での需要増加にともない、急速な環境の変化に対応するために、M&Aによる業界再編が進んでいます。輸出入や流通網、仕入れルートや養殖施設の確保をし、業界の変化への適応を進める大手企業が増えています。
また、後継者問題を解決するためのM&Aも増加しています。M&Aによる事業承継を実現できれば、後継者を探す負担が軽減され、短期間で事業承継を完了できるでしょう。
さらに、先述の通り、国内での需要が衰退しているのに対し、海外での需要は高まっている状態です。これは、健康意識の高まりや日本食への注目が背景とされています。そこで、国内の水産加工・卸会社は海外に拠点を構えることも多く、海外企業の買収や提携を進めるなどの対応をするようになっています。
同業種間でのM&A
同業種間でのM&Aは、水産加工・卸企業同士の統合によって規模を拡大し、経営基盤を強化することを目的としています。特に仕入れや物流を一本化することで、重複するコストを削減できる点が大きなメリットです。
例えば、加工工場を統合すれば原材料の調達を一括管理でき、仕入コストの引き下げにつながります。また、物流拠点を集約することで輸送効率が高まり、在庫管理の無駄も減らせます。
さらに、商品ラインナップを拡充することで幅広い顧客ニーズに対応できる点も重要です。家庭用から業務用まで多様な加工品を展開できれば、需要の取りこぼしを防ぐことが可能です。
こうした取り組みにより収益性を高め、業界全体での生産性向上や競争力強化につなげる手段として、同業種間のM&Aは注目されています。
異業種間でのM&A
異業種間でのM&Aは、水産加工・卸業界が抱える課題を克服し、新たな価値を創出する手法として拡大しています。特に食品メーカーや外食チェーンとの提携は、販路の拡大や商品開発力の強化につながる点が大きな特徴です。
オンライン販売の強化や物流企業との連携により、効率的な供給体制を構築できるほか、異業種のマーケティングや生産管理のノウハウを取り入れることで、新しいビジネスモデルの確立も可能になります。
これらの取り組みは、既存の卸売に依存しない収益基盤の形成に寄与します。リスク分散を図りながら成長を目指せる点で、異業種間M&Aは今後も増加していくと考えられます。
水産加工・卸業界のM&Aの流れ

水産加工・卸業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。
1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補先企業との接触、意向表明書受領
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
それぞれ詳しくみていきましょう。
Step1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。
事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。
その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。
譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。
また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。
M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。
仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。
それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補先企業を含む。)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。
また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。
※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ買い手候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補先企業がM&Aを検討する際の参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。
Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
次に、買い手候補先企業と接触します。
ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。
対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。
売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。
そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終契約締結・クロージングです。
M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。
買い手にとってDDには、以下のような目的があります。
・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる
その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。
譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]
水産加工・卸業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

水産加工・卸業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
・後継者不足を解消できる
・ブランド・販路の拡大
・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
それぞれ詳しくみていきましょう。
水産加工・卸業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。
一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。
水産加工・卸業界のM&Aのメリット②:仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
事業承継において、廃業を選択した場合には、仕入先や取引先との契約を終了させる必要が出てきます。債権債務の整理をしたり、さまざまな影響が自社および取引先に波及します。
一方で、M&Aを実施する場合、一般的には既存取引先との契約関係は引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えられます。
水産加工・卸業界のM&Aのメリット③:後継者問題を解消できる
水産加工・卸業界では、人材不足や後継者不足が深刻な問題となっています。後継者不足によって廃業となってしまうと、これまで培ってきた技術やノウハウを失うだけでなく、多くの関係者に迷惑をかけることになります。
しかし、M&Aを実施すれば後継者不足の状況でも事業承継によって事業の継続が可能です。すでに技術やノウハウを持った企業とのM&Aの場合は、後継者の教育に多くの時間や労力を割かずにリタイアもできます。
水産加工・卸業界のM&Aのメリット④:ブランド・販路の拡大
M&Aを通じてブランドの知名度や信頼度を高められる点は、水産加工・卸業界でも大きな魅力です。単独ではリーチが難しい消費者層や販路にも、買い手企業の経営資源を活用することで効率的にアプローチできます。
例えば、大手食品メーカーや商社の傘下に入ることで、全国規模の販売網や大手スーパー、外食チェーンとの取引ルートを活用でき、販売チャネルの拡大につながります。さらに、宣伝やプロモーションに十分な投資を行える環境が整えば、ブランドの発信力は飛躍的に向上するでしょう。
この結果、既存顧客の信頼をさらに強化しながら、新たな取引先や消費者層を獲得できます。競争が激しい食品業界において、ブランド力と販売力の両立は、持続的な成長を実現するための重要な要素といえるでしょう。
水産加工・卸業界のM&Aのメリット⑤:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
水産加工・卸業界でも、後継者不足の問題は深刻化しており、M&Aはその有効な解決策といえます。買い手企業に事業を引き継ぐことで、経営者個人が抱える保証や資金リスクを大幅に軽減できます。
特に中小規模の事業者では、金融機関からの借入に経営者保証が求められるケースが多く、事業承継時の大きな負担となってきました。M&Aを活用すれば、こうしたリスクから解放されると同時に、売却益を確保することも可能です。
さらに、従業員の雇用や仕入先・取引先との関係も維持されやすく、事業の継続性を守れる点も重要です。結果として、経営者は安心して次のステップへ進み、企業は安定した運営を続けることができるでしょう。
水産加工・卸業界のM&Aの相場

水産加工・卸業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。
これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。
その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。
水産加工・卸業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
・類似会社比較法
・類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]
水産加工・卸業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

水産加工・卸業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。
・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・条件に優先順位をつける
それぞれ詳しく解説します。
水産加工・卸業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する
M&A助言会社に求められる能力は多岐にわたります。法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、そして顧客の立場に寄り添って助言を提供できる姿勢が求められます。さらに、M&Aにおける売り手・買い手双方の行動原理を理解し、それを交渉に活かせることも重要です。
真に顧客に寄り添える立場であるかを見極めるためには、売り手・買い手の双方から報酬を受け取る仲介会社ではなく、売り手と同じ立場で事業オーナーに助言する会社(FA)を選ぶことが大切です。
また、その会社に所属するアドバイザーの知識・経験・ノウハウなど、FAサービスの品質そのものも慎重に確認すべきポイントです。
水産加工・卸業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する
売り手にとって、自社をより良い条件で売却するために最も重要なのは、自社の正当な収益力と財務状況を正確に把握することです。
中小企業では、税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上しているケースが少なくありません。そのため、具体的な買い手候補へアプローチする前に、実質的な収益力を明確にし、貸借対照表上の現金化可能資産や非事業用資産を整理・確認しておく必要があります。
これにより、自社の本来の企業価値を正確に評価でき、交渉においても有利な条件を導きやすくなります。
水産加工・卸業界のM&Aのポイント③:条件に優先順位をつける
M&Aを実施する際には、交渉の条件に優先順位をつけるようにしましょう。そもそも条件が明確でなければ、自社に不利な条件で成立する可能性があります。また、優先順位をつけなければ妥協できる部分を見いだせず、交渉決裂となる可能性があります。
M&Aは自社だけでなく相手企業との交渉によって最終的な条件が決まります。すべて自社の思い通りに行く可能性は低いため、あらかじめ優先順位をつけて臨みましょう。
水産加工・卸業界のM&A売却事例5選

ここでは、水産加工・卸業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の5つの事例を紹介します。
・阪和興業×マルゴ福山水産
・旭食品×香西物産
・麻生×東都水産
・Kyokuyo × Engelsviken Canning Denmark
・旭食品 × オーストラリアの水産加工卸「TFFA」
実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。
水産加工・卸業界のM&A売却事例①:阪和興業×マルゴ福山水産
阪和興業は、2024年9月30日に、マルゴ福山水産を買収し80%の株式を取得したことを発表しました。
阪和興業は、鉄鋼をはじめとして各種金属、食品、エネルギー、生活資材、機械、住宅資材などの幅広い商材を扱っており、業界に確固たるポジションを築いています。「存在感のある商社」として、時代や社会の変化に応じて拡大・深化しながら発展し続けています。
マルゴ福山水産は2003年に設立され、売上高は38億円です。ホタテ、秋鮭、毛ガニ、ミズダコなど北海道北部で水揚げされる水産物を冷凍加工し、販売しています。産地メーカーの強みを生かした事業展開が特徴的です。
本件M&Aによって、阪和興業の既存グループ会社の強みである加工機能の強化と北米・アセアンなど海外向け販売をより一層強化でき、食品部門全体でのシナジー効果が発生すると考えられています。
水産加工・卸業界のM&A売却事例②:旭食品×香西物産
旭食品は、2023年5月1日付で香西物産を買収し、同じく全額出資会社で水産物などを販売している東洋冷蔵から全株式を取得しました。
旭食品は、トモシアホールディングスの傘下で食品卸売業を展開しています。グループ内では100%子会社の大倉やかいせい物産を軸に、寿司ネタをはじめとする水産物卸売事業の強化を図っています。
香西物産は1979年に設立され、売上高は4億3,500万円です。四国地区や岡山県、広島県などで事業を展開している企業です。
本件M&Aによって、旭食品は水産物卸売事業のエリア拡大を図っています。また、旭食品グループとの連携強化によりシナジーを生み出すことで、香西物産の事業拡大も目指しています。
水産加工・卸業界のM&A売却事例③:麻生×東都水産
麻生は、全額出資で設立した豪壮会社ASTSホールディングスを通じて、東都水産をTOBにより買い付けました。143万3,902株を買い付け、買付金額は66億1,500万円ほどとなっています。出資比率は36.53%となりました。
麻生グループは、明治5年石炭採掘での創業に嚆矢を発し、それ以来電力、銀行、陸運事業など北部九州でのインフラ開発から、筑豊地域での病院経営、不動産開発事業、そしてセメント製造、医療、教育、人材開発と事業を広げ、また変化をさせて今日に至っています。
東都水産は1935年に創設された東京魚市場を前身としており、当時は豊洲市場における水産物取扱高で19%のシェアを誇っていました。主力の水産物卸売をはじめ、冷蔵倉庫、不動産を経営の3本柱としている企業です。
本件M&Aによって、東都水産は麻生グループの有する九州地区での営業基盤やネットワーク、その他幅広い分野での事業基盤などのリソースを活用し、事業基盤の強化や収益力向上に取り組みます。また、麻生グループは、食という新たな事業領域への拡大を図っています。
水産加工・卸業界のM&A売却事例④:Kyokuyo × Engelsviken Canning Denmark
Kyokuyo(日本企業)は、2025年9月付で、デンマークのEngelsviken Canning Denmark(ECD)とEngelsviken Norwayの経営権のうち90%を子会社であるKyokuyo Europeを通じて取得しました。
Kyokuyoは、日本国内外で水産物の加工・流通・輸出入を手がける大手企業で、欧州を含むグローバル展開を強化しています。
Engelsviken Canning Denmarkは、魚介類を缶詰や加工品として製造し、Engelsviken Norwayは輸出入および販売を担う企業です。ECDは2024年にDKK 13.6Mの粗利益とDKK 2.8MのEBITDAを報告しています。
このM&Aによって、Kyokuyoは欧州市場での加工・販売体制を強化でき、地域ブランドや流通拠点を自社で持つことで供給安定性の向上や販路拡大が予測されます。
水産加工・卸業界のM&A売却事例⑤:旭食品 × オーストラリアの水産加工卸「TFFA」
旭食品株式会社は、2024年7月付でオーストラリア・クイーンズランド州に拠点を置く水産加工卸業者「TFFA Pty Ltd」の株式80%を取得し子会社化しました。
旭食品は主に寿司ネタや水産物卸売を行う企業で、グループ内で国内外の加工・卸売ネットワークを持っています。
TFFA Pty Ltdは、オーストラリアで加工および卸売を手がけており、現地市場だけでなく輸出にも対応する設備や流通網を有しています。設立年や売上額の詳細は公表されていません。
このM&Aによって、旭食品はアジア太平洋地域での供給拠点を強化でき、国際的なシナジーを生み出すことが期待されます。その結果、海外販路の拡大とブランド力の向上が見込まれます。
水産加工・卸業界のM&Aに関するよくある質問

水産加工・卸業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。
理想の取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。
水産加工・卸業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?
もちろん全国問わず、M&Aは可能です。
全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。
水産加工・卸業界のM&Aに関するよくある質問②:どうすればよい条件で会社を売却できますか?
いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。
業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。
水産加工・卸業界のM&Aに関するよくある質問③:どのような業種とのM&Aが多いですか?
水産加工・卸業界は、同業種だけでなく異業種とのM&Aも活発に行われています。異業種の場合、関連性の高い食品関連会社や資金力の豊富なIT関連会社、不動産会社などが挙げられます。
中でも、食品関連会社はすでに水産物の取扱いに関して技術やノウハウ、経験を所有しているケースもあるため、取引が多く行われています。
まとめ

水産加工・卸業界では、労働力や後継者不足によって市場規模が減少しています。その一方で海外市場は拡大傾向にあり、日本だけでなく海外企業も交えたM&Aがみられるようになりました。
水産加工・卸業界でM&Aを実施すれば、後継者不足を解消でき、事業の継続や個人保証の解除、従業員の雇用を守れます。
M&Aを実施する際には、自社の収益力や財務状況を確認し、適切なM&A助言会社を選定したうえで、交渉の条件に優先順位をつけましょう。
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