アパレル業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

2025.02.14

公開日:2025.02.14

2025.02.14

2025.10.31

更新日:2025.10.31

2025.10.31

アパレル業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

昨今、アパレル業界は需要が低迷しており、事業を継続するためにもM&A取引が活発に行われるようになっています。

また、アパレル業界では、大手企業による低価格化や多店舗展開、ECの拡大などが背景となり、M&Aが有効な解決の手段として注目されています。

では、具体的にアパレル業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新のアパレル業界のM&A事情を解説します。さらに、アパレル業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、M&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。

アパレル業界とは?業界の現状を解説

アパレル業界の動向

アパレル業界は、衣料品の企画・製造・販売を通じて、人々の生活や消費トレンドに深く関わる産業です。国内外の市場動向や消費者ニーズの変化が早く、時代の流れを映す業界ともいえます。

ここでは、アパレル業界の定義や特徴、そして近年の動向について整理し、現状を分かりやすく解説します。

アパレル業界の定義

アパレル業界とは、衣料品やファッション雑貨を対象に、企画から製造、販売までを一貫して担う産業を指します。

川上に位置するメーカーは、生地の選定やデザイン、縫製を担当し、川下の小売業は百貨店や量販店、セレクトショップなどを通じて商品を販売します。さらに、ECサイトなど多様な販路を活用し、消費者に商品を届けています。

このように、工程ごとの役割分担が明確であることが業界の大きな特徴です。

また、流行や消費者の価値観の変化は売上に直結するため、時代の動きを敏感に捉える力が欠かせません。近年では、環境に配慮したサステナブル素材の採用や、デジタル技術を活用した商品開発も進んでいます。

こうした変化への柔軟な対応力が求められる点で、アパレル業界は常に進化を続ける産業といえるでしょう。

アパレル業界の動向

アパレル業界は、社会の変化や消費者のライフスタイルに大きな影響を受けやすい産業です。高齢化の進行により、シニア層を対象とした機能性ウェアや快適性を重視した商品の需要が伸びています。一方で、若年層人口の減少による市場縮小への懸念も広がっています。

また、ECサイトやサブスクリプションサービスの普及によって販売チャネルが多様化し、店舗に依存しない購買行動が一般化しました。さらに、環境意識の高まりを背景に、サステナブル素材の採用やリユース事業への取り組みが企業戦略に組み込まれています。

加えて、コロナ禍をきっかけにオンラインと実店舗を融合させるOMO(Online Merges with Offline)戦略が定着しつつあります。こうした変化に柔軟に対応し、新たな価値を創出できる企業こそ、今後も持続的な成長を実現できるでしょう。

市場規模の推移

矢野経済研究所の「国内アパレル市場に関する調査を実施」によると、アパレル業界の市場規模は、2023年で8兆3,564億円となっています。バブル期の15兆円をピークに、2010年頃には10兆円程度へと減少しています。

国内アパレル総小売市場規模推移

矢野経済研究所「国内アパレル市場に関する調査を実施

アパレル業界では、SPAが台頭していることが特徴の一つです。従来は、製造と企画、小売を異なる企業で分担しており、この水平分業型が標準とされていました。しかし、SPAでは商品の企画と小売りを同じ企業で行います。

SPAでは、大量に生産している商品を多くの店舗に分配し、供給と在庫を全体的に最適化します。それによって在庫不足や過剰な供給を防ぎ、中間業者を利用しないことによる大幅なコストカットも実現しています。

また、近年のインターネットの急速な普及にともない、ECサイトでの販売が好調を維持しています。一方で、百貨店での販売は低迷しており、販売チャネルが大きく変化していると考えられるでしょう。

EC事業の拡大により、オムニチャネルの取り組みも盛んになっています。スマートフォンアプリやSNSなどを活用し、リアル店舗での販売とシームレスな連携を実現しています。

さらに、アパレル業界ではD2C事業も拡大しているのが特徴のひとつです。D2Cとは、オリジナルブランド商品を、自社で運営しているECサイトで消費者に直接販売を実施する事業モデルです。実店舗販売と比較して、立ち上げが容易となっています。

また、大手アパレル企業が低価格化や店舗増加を積極的に行っている中で、収益源の確保を目的として海外展開を進めるケースも多くなっています。

サービス・運営形態の多様化

アパレル業界では、従来の店舗販売に加え、ECやサブスクリプション型サービスなど多様なビジネスモデルが広がっています。特にD2C(Direct to Consumer)モデルは、ブランドが自社を通じて顧客に直接商品を届ける仕組みであり、中小規模の企業でも参入しやすい点が特徴です。

また、環境意識の高まりを背景に、リユース市場やサステナブルファッションへの取り組みも拡大しています。消費者の価値観やライフスタイルの変化に応じ、企業は複数の販売チャネルを組み合わせた戦略を展開しています。

こうした多様化は業界全体の成長を後押しすると同時に、変化に柔軟に対応できる企業が競争優位を確立していくといえるでしょう。

新型コロナウイルスの影響

コロナ禍では、外出自粛や店舗休業の影響により、実店舗の売上が大きく落ち込みました。その一方で、EC利用が急速に拡大し、アパレル業界全体でデジタル化が進展しました。

在宅時間の増加に伴い、ルームウェアやカジュアル衣料の需要が高まり、消費者の購買行動にも大きな変化が見られました。感染拡大が落ち着いた現在では、店舗で商品を体験しつつ、購入はオンラインで行うスタイルが一般化しています。

この結果、OMO(Online Merges with Offline)戦略を導入する企業が増加し、実店舗とECを融合させたビジネスモデルが主流になりつつあります。今後もこの流れは継続し、デジタルとリアルを組み合わせた販売戦略が業界の成長を左右すると考えられます。

アパレル業界のM&A動向とは?

アパレル業界のM&A動向

アパレル業界では、競争激化や消費者ニーズの多様化を背景にM&Aが進んでいます。特に「同業種間」と「異業種間」という2つの動きがあり、それぞれ異なる目的と効果を持つ点が特徴です。

同業種間でのM&A

同業種間でのM&Aは、アパレルメーカー同士が統合することで規模を拡大し、経営基盤を強化することを目的としています。特に生産や物流を一本化することで、重複コストを削減できる点が大きなメリットです。

例えば、製造ラインを統合すれば原材料の仕入れを一括化でき、スケールメリットによる仕入価格の引き下げが期待されます。また、物流拠点を集約すれば輸送効率が高まり、在庫管理の無駄も減らせます。

さらに、ブランドラインを拡充することで、幅広い顧客層への対応が可能になります。ファストファッションから高価格帯まで多様な商品を提供できれば、顧客の取りこぼしを防ぎ、売上の安定化につながるでしょう。

こうした取り組みにより、収益性の改善と市場競争力の強化を同時に実現できるため、同業種間のM&Aは業界再編の中心的な手段として注目されています。

異業種間でのM&A

一方、異業種間でのM&Aは、アパレル業界が抱える課題を克服し、新たな価値を創出するための戦略として拡大しています。特にEC企業やIT企業との提携は、デジタル化の遅れを補い、販売体制を強化する効果が大きいといえます。

オンライン販売の強化や顧客データの活用により、効率的なマーケティングを実現できるほか、AIによる需要予測や在庫最適化などのデジタル施策も進みやすくなります。

また、異業種のノウハウを取り入れることで、新しいビジネスモデルを構築し、既存のアパレル事業に依存しない収益基盤を築ける点も重要です。リスク分散を図りながら成長を目指せることから、異業種間のM&Aは今後も活発化していくと考えられます。

アパレル業界のM&Aの流れ

アパレル業界のM&Aの流れ

アパレル業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。

1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補先企業との接触、意向表明書受領
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

それぞれ詳しくみていきましょう。

Step1.M&Aの事前準備、助言会社の選定

まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。

事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。

その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。

譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。

また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。

M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。

仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。

それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補先企業を含む。)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。

弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。

また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。

※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ買い手候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補先企業がM&Aを検討する際の参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。

Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領

次に、買い手候補先企業と接触します。

ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。

対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運営方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。

売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。

そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。

Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終契約締結・クロージングです。

M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。

買い手にとってDDには、以下のような目的があります。

・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる

その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。

譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]

アパレル業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

アパレル業界のM&Aのメリット

アパレル業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の5つが挙げられます。

・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
・事業の幅を広げられる

・ブランド力、販売力を強化できる
・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

それぞれ詳しくみていきましょう。

アパレル業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる

第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。

一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。

アパレル業界のM&Aのメリット②:仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる

事業承継において、廃業を選択した場合には、仕入先や取引先との契約を終了させる必要が出てきます。債権債務の整理をしたり、さまざまな影響が自社および取引先に波及します。

一方で、M&Aを実施する場合、一般的には既存取引先との契約関係は引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えられます。

アパレル業界のM&Aのメリット③:事業の幅を広げられる

アパレル業界では、インターネットの普及によるEC事業の拡大が大きなカギを握っています。ECを活用できれば販売機会を増やすことができ、新たな顧客を獲得して事業拡大につなげられるでしょう。

しかし、自社で一からECサイトなどを構築するには、さまざまなノウハウや技術が必要となります。すでにECで一定のユーザーや認知を獲得している企業の傘下となれれば、事業の幅を広げられるようになります。

アパレル業界のM&Aのメリット④:ブランド力、販売力を強化できる

M&Aを通じてブランドの知名度や信頼性を高められる点は、大きな魅力の一つです。単独での展開では届きにくい顧客層にも、買い手企業の経営資源を活用することで効率的にアプローチできます。

例えば、大手企業の傘下に入ることで、全国規模の販売網やECプラットフォームを活用でき、販路の拡大につながります。さらに、マーケティングや広告に多額の投資を行える体制が整えば、ブランドの発信力は飛躍的に向上するでしょう。

これにより、既存顧客のロイヤルティ向上と新規顧客の獲得を同時に実現できます。競争が激化するアパレル業界において、ブランド力と販売力の両立は、持続的な成長の鍵といえるでしょう。

アパレル業界のM&Aのメリット⑤:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

アパレル業界では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻化しており、M&Aはその有効な解決策として注目されています。事業を買い手に引き継ぐことで、経営者個人が負う保証や資金リスクを軽減できる点が大きな利点です。

特に中小規模の企業では、金融機関からの借入に経営者保証が求められるケースが多く、事業承継の大きな障壁となってきました。M&Aを活用すれば、こうした負担から解放されると同時に、売却益を得ることも可能です。

さらに、従業員の雇用や取引先との関係が維持されやすく、事業の継続性を確保できる点も重要です。結果として、経営者は安心して次のステージへ進み、企業は安定した運営を継続できるでしょう。

アパレル業界のM&Aの相場

アパレル業界のM&Aの相場

アパレル業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売り上げやブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。

これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。

その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。

アパレル業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。

・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ

インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。

理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。

本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。

マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。

・類似会社比較法
・類似取引比較法

類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。

具体的には、以下のように算定します。

EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。

また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。

企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。

企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値

第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。

なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。

しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。

M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]

また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]

アパレル業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

アパレル業界のM&Aのポイント

アパレル業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。

・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・自社の在庫状況を確認する

それぞれ詳しく解説します。

アパレル業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する

M&A助言会社に求められる能力は多岐にわたります。法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、そして顧客の立場に寄り添って助言を提供できる姿勢が求められます。さらに、M&Aにおける売り手・買い手双方の行動原理を理解し、それを交渉に活かせることも重要です。

真に顧客に寄り添える立場であるかを見極めるためには、売り手・買い手の双方から報酬を受け取る仲介会社ではなく、売り手と同じ立場で事業オーナーに助言する会社(FA)を選ぶことが大切です。

また、その会社に所属するアドバイザーの知識・経験・ノウハウなど、FAサービスの品質そのものも慎重に確認すべきポイントです。

アパレル業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する

売り手にとって、自社をより良い条件で売却するために最も重要なのは、自社の正当な収益力と財務状況を正確に把握することです。

中小企業では、税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上しているケースが少なくありません。そのため、具体的な買い手候補へアプローチする前に、実質的な収益力を明確にし、貸借対照表上の現金化可能資産や非事業用資産を整理・確認しておく必要があります。

これにより、自社の本来の企業価値を正確に評価でき、交渉においても有利な条件を導きやすくなります。

アパレル業界のM&Aのポイント③:自社の在庫状況を確認する

トレンドや季節に左右されやすいアパレル業界では、商品のライフサイクルが他業種に比べて短い傾向があります。そのため、在庫を売却しようとしても、帳簿価格よりも低い評価額になる可能性があります。

M&Aを検討する際は、手元に残っている在庫や販売予測、会計上の処理方針を事前に整理しておくことが重要です。これにより、資産評価の適正化とスムーズな交渉が可能となり、より有利な条件での取引につながるでしょう。

アパレル業界のM&A売却事例6選

アパレル業界のM&A売却事例

ここでは、アパレル業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の6つの事例を紹介します。

・W&Dインベストメントデザイン×ライトオン
・三井物産×ビギホールディングス
・ティーキャピタルパートナーズ×ストライプインターナショナル

・ベイクルーズ×ブランド統合・EC強化
・アダストリア×米Velvet子会社売却
・オンワードHD×ECプラットフォーム連携

実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。

アパレル業界のM&A売却事例①:W&Dインベストメントデザイン×ライトオン

W&Dインベストメントデザインは、ライトオンの普通株式を2024年12月3日から2025年1月6日までの公開買い付けによって取得すると決定しました。

W&Dインベストメントデザインは、ワールド及び日本政策投資銀行がそれぞれ直接、または間接に50%ずつ出資している合弁会社です。「事業」と「金融」を両輪とし、ファッション産業の再生投資に精通した投資会社です。

ライトオンは、カジュアルウェアの小売販売を行っています。2024年8月期に6期連続で最終赤字を計上し、2025年8月末時点で債務超過となる見込みです。

本件M&Aによって、W&Dインベストメントデザインは、経営資源の資産効率の向上、収益構造の抜本的な改革を断行します。また、ライトオンのブランド戦略を再構築し、ファッション市場の一角を占めるポジションを確立することを目指しています。

アパレル業界のM&A売却事例②:三井物産×ビギホールディングス

三井物産は、2024年5月31日付でビギホールディングスを買収し、MSD企業投資(同)が運営するMSD第一号投資事業有限責任組合(同)から株式を取得、出資比率33.4%から完全子会社化しました。

三井物産は、中期経営計画2026において「Wellness Ecosystem Creation」を攻め筋のひとつと定め、多様化する消費者のライフスタイルの質向上への貢献を目指しています。

ビギホールディングスは、1970年に創業され、国内約550店舗を展開しています。「MEN’S BIGI」や「PAPAS」、「MARTINQUE」、「MOGA」などのブランドを展開している企業です。

本件M&Aにより、三井物産はアジアを中心としたグローバル市場において、ファッションをはじめとするライフスタイル事業を通じたウェルビーイングの工場を通じ、人々のより豊かで輝く暮らしの実現を目指しています。

また、ビギホールディングスが強みとする創造力、販路や顧客基盤に、三井物産が有する業界横断的な連携、経営・DXのノウハウや国内外のネットワークといった総合力を掛け合わせることで、ビギHDはライフスタイル事業者として、更なる成長を目指しています。

アパレル業界のM&A売却事例③:ティーキャピタルパートナーズ×ストライプインターナショナル

ティーキャピタルパートナーズは、2022年3月11日付でストライプインターナショナルを買収しました。また、創業者の石川康晴氏や取引先企業などから過半数の株式を取得し、石川氏はSPCに再出資する模様です。一部報道では全株式を取得し、有利子負債を含めた金額は300億円強とされています。

ティーキャピタルパートナーズは、プライベートエクイティファンドを管理・運営する企業です。これまで28件の投資(2022年3月時点)をしており、コンシューマー・リテール分野でも豊富な投資実績を誇っています。

ストライプインターナショナルは、「earth music&ecology」「Green Parks」「AMERICAN HOLIC」をはじめ複数のライフスタイルブランドを有し、リテール、EC分野を積極的に展開している企業です。

本件M&Aによって、ストライプインターナショナルはこれまでの既存ブランドを活かしたリテール・EC戦略に加え、ティーキャピタルパートナーズの経営ノウハウを活かし、サステナビリティ戦略の推進、人材強化、海外戦略拡大など、更なる企業価値の向上を目指しています。

アパレル業界のM&A売却事例④:ベイクルーズ×ブランド統合・EC強化

ベイクルーズは、2021年9月1日付で7社の子会社を本体に吸収合併し、ブランド統合を実施しました。

ベイクルーズはファッション・家具・飲食など複数の事業を展開するアパレル兼ライフスタイル企業です。セレクトショップ運営ブランドを中心に、「ジャーナルスタンダード」「スピック&スパン」「イエナ」などを擁しています。

統合された子会社ブランドは、設立時期・売上規模などブランドごとに異なりますが、主にファッションブランドであり、それぞれ数年間の運営実績がありました。たとえば「ジョイントワークス」や「ドゥーズィエム クラス」など、ファッション性・セレクト性が高いブランドが含まれています。

この統合によって予想されていることは、販売・管理コストの削減、間接部門(経理・人事など)の効率化、ブランド横断で仕入れや物流を統合することによるスケールメリットの獲得です。

さらに、重複ブランドの整理と新業態「ベイクルーズストア」の出店などによりブランドラインナップの最適化と収益性の改善が期待されます。

アパレル業界のM&A売却事例⑤:アダストリア×米Velvet子会社売却

アダストリアは、2025年7月25日付で、米国子会社 Adastria USA, Inc. が所有するVelvet, LLC(米国カリフォルニア州)の出資持分を PIVOT GROWS LLC(米国デラウェア州)に譲渡しました。

アダストリアは「グローバルワーク」「ニコアンド」などのカジュアルブランドを運営し、国内に多くの店舗を展開する大手アパレル企業です。若年層向けアパレルを中心に、成長市場での進出やブランドライセンス事業なども手がけています。

Velvet, LLC は1997年設立のアパレル企業であり、2024年12月期には売上高約69億6,000万円、営業利益で6億2,700万円の赤字、純資産で4億3,900万円のマイナスという財務状況でした。

この売却によってアダストリアは米国事業から撤退し、業績不振の拠点を整理できます。同時に、リソースを東南アジアなど成長エリアに集中させる戦略が進むでしょう。これにより企業価値を高め、海外拡大戦略の効率化が期待されます。

アパレル業界のM&A売却事例⑥:オンワードHD×ECプラットフォーム連携

オンワードHDは、自社のECプロジェクト「ONWARD Design Diversity」を短期間で立ち上げるため、Shopifyを活用し、複数ブランド(「ONWARD DD」「IIQUAL」など)を立ち上げました。ECサイト構築やブランドサイト展開などで、プラットフォームの拡張性を重視しています。

このプロジェクトは流行に左右されにくいアイテムやジェンダーフリーなデザインなど、ブランドコンセプトにこだわる服作りを追求しており、コロナ禍以降の事業環境変化に対応する形で進められています。

この連携により予測されることは、EC/店舗間の在庫連携強化、顧客データの一元化、ブランドのデジタル発信力向上です。OMO(Online-Merge-Offline)戦略が進み、顧客体験を重視した購入プロセスの改善が期待されます。

アパレル業界のM&Aに関するよくある質問

アパレル業界のM&Aに関するよくある質問

アパレル業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。

理想の取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。

アパレル業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?

もちろん全国問わず、M&Aは可能です。

全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。

アパレル業界のM&Aに関するよくある質問②:どうすればよい条件で会社を売却できますか?

いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。

業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。

アパレル業界のM&Aに関するよくある質問③:どのような業種とM&Aをすべきですか?

アパレル業界では、同業種異業種問わずさまざまな企業とのM&A事例があります。

同業種とM&Aを実施すれば、ノウハウを獲得できたり販路を拡大できたりします。一方で異業種とM&Aを実施すれば、トレンドへの対応やネットワークの強化、自社で対応できないECなどにも対応できます。

自社の課題や財務状況を確認し、理想のM&Aを実現できる企業を探しましょう。

まとめ

まとめ

本記事では、アパレル業界のM&A事情について解説しました。

アパレル業界はバブル期以降市場が縮小しており、SPAの台頭やECの普及などによる販売チャネルの変化も起こっています。また、海外展開を進める企業も現れており、事業規模を拡大する企業が増えています。

アパレル業界でM&Aを実施すれば、事業継続や拡大ができ、仕入先との関係も継続できます。

適切なM&A助言会社を選定したうえで、正当な財務状況や収益力、在庫状況などを確認し、M&Aを進めるようにしましょう。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。

この記事の著者

RISONAL 編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

まずは無料で
ご相談ください

お電話でのお問い合わせ

03-6831-9322

(平日9:00〜18:00