事業売却で失敗しないための「デュー・デリジェンス(DD)」への対応
公開日:2024.12.09
2024.12.09
更新日:2024.12.09
2024.12.09
「デュー・デリジェンス」とは?
一般的に売り手は対象会社の情報を十分に有している一方で、買い手は外部から取得できる情報しか有しておらず、当然ながら、両者の間に大きな情報の非対称性が存在します。デュー・デリジェンス(略称DD)は、主に買い手が投資意思決定に十分な対象会社の情報を収集・分析を行うために実施する調査で、買収監査といわれることもあります。
まず、デュー・デリジェンスが実施される目的は主に3つです。
①定量化できる発見事項を株価評価に織り込む
②定量化できない発見事項を株式譲渡契約書等へ織り込む(例えば、表明保証の設定や譲渡手法の変更など)
③買収後の統合計画や事業戦略へ反映する
また、DDは専門領域ごとに以下のように分類されます。事業活動に関して非常に広い領域が調査の対象となることがおわかりいただけるでしょう。
-財務DD:財務リスクや正常収益力(=本源的かつ持続可能な収益力)などを把握することを目的に、財務会計情報の分析を行います。財務DDで実施される分析には、売上や仕入の期間比較分析および事業別・相手先別分析、設備投資や資金繰りの分析、簿外負債の調査、会計処理や内部統制の状況の把握などが含まれます。
-税務DD:潜在的な租税債務を把握し、税務処理の適切性を確認する目的で実施されます。税務DDの調査は、主に過去の申告書や税務調査の状況の確認などが含まれます。
-法務DD:法的権利義務関係や係争中案件等に関する潜在的リスクを把握することを目的に実施されます。法務DDにおける分析には、重要な契約書類、登記簿や株主名簿など会社の設立にかかる書類、許認可、その他の権利関係の確認などが含まれます。
-ビジネスDD:市場の成長性や事業計画の蓋然性を評価することで株価の妥当性を検討し、今後の事業戦略を立案することを目的に行われます。ビジネスDDの手続きには、マクロ環境や業界の競合分析、対象会社の強み・課題の分析などが含まれます。ビジネスDDは、主に外部環境が売上に及ぼす影響を分析するコマーシャルDDと、対象会社の組織や業務運営など内部環境がコストに及ぼす影響を分析するオペレーショナルDDとに大別されます。売り手と対象会社のシナジー分析もこのビジネスDDの一部と整理されます。
このほか、案件における重要性に応じて、人事労務DD(対象会社の組織・人事制度の問題点を把握する)やIT DD(情報システムの問題点や改善点を把握し、IT資産の価値を測定)、環境DD(対象会社が所有または使用する拠点について、土壌汚染や排気排水等の有無を確認する)といった領域の調査が行われることがあります。
売り手の「デュー・デリジェンスを受け入れる」プロセス
デュー・デリジェンスは一般に、1~2ヵ月程度の期間で実施されます。所要期間はDDの対象領域や対象となる子会社の数や所在地によって左右され、特にDD対象に海外子会社が存在するケースなどでは期間が長期化する傾向にあります。
中小企業のM&Aにおいては、数日から1~2週間といった非常に短期間でDDが実施されるケースも散見され、ろくに実施をしていないケースすら存在します。しかし、本来DDは買い手にとってM&Aを実施するべきか否か、そして実施する場合にどのような条件を提示していくかを判断するうえで重要な材料を提供するものですから、金銭的・人的リソースの観点からの合理性を保ちつつ、要点を押さえたDDの実施をすべきでしょう。
売り手としても、買い手がDDを希望しないからといって情報開示を行わずにM&A取引を行うことは、譲渡後のトラブルに繋がりかねません。売り手の表明保証に関連しては、「DD等を通じて買主が認識していた事項については補償の対象にしない」という契約条件(=アンチ・サンドバッギング条項)を設定する方法もあります。売り手としてしかるべき情報開示を行うことで、買い手が当然に情報を認識していたはずだと言える状況を作り、株式譲渡契約書のなかで売り手のリスクを限定するなどの対応も検討するべきでしょう。
仲介会社のなかには、成約スピードを重視して、非常に短い期間で簡易的なDDを実施するよう要求するケースもあるため注意が必要です。最近、相次いで報じられている悪質な買い手により売り手がトラブルに巻き込まれる事例でも、仲介会社主導のもと、トップ面談後1~2ヵ月といったスピード感でM&Aの成約に至っているケースが散見されます。こうしたケースではろくにDDを実施しておらず、売り手の利益保護もおざなりであったものと想像できます。
デュー・デリジェンスの受け入れは、買い手から売り手に依頼資料リストが提示されるところから始まります。M&A支援業者が関与する場合には、一般的な依頼資料リストをひな形として持っている場合がありますので、それをたたき台にしてリストの準備を進めるのも一案でしょう。弁護士や会計士、税理士などが関与する場合には、各専門家が依頼資料リストを用意するのが一般的です。
売り手は、買い手の依頼資料リストに基づいて資料の準備を進めます。
依頼された資料の提出が進むと、各領域のデュー・デリジェンスの担当チームによる分析・調査が行われます。デュー・デリジェンスの各担当チームからの質問とそれに対する回答のやりとりは、Excelなどで作成されたQ&Aシート上で行うほか、インタビューを開催してまとめて回答を行う場合もあります。なお、中小企業のM&Aにおいては、DDコストを抑える趣旨で、ヒアリングにより得られた回答に依拠する割合が高くなります。したがって、インタビューにおいて十分かつ的確な質疑応答が行われることが、効率的なDDの実施において重要です。
なお、仲介会社のなかには、ひどい場合だと資料のコピー取りくらいしかサポートを行わないなど、DDへの関与が極めて限定的であるケースが散見されます。DD対応を会計士などの士業に外注しているケースも珍しくありません。DD対応に慣れない売り手にとってみれば、支援業者のサポートの充実度は、スムーズな案件進行においてたいへん重要です。仲介会社の支援を受けてM&Aを進める場合には、DDの受け入れに際してその仲介会社がどのようなサポートを提供してくれるのか、事前に確認しておくとよいでしょう。
もちろん、なかにはしっかりDDの受け入れサポートを提供しようとする仲介会社もありますが、仲介サービスでは、利益が相反する売り手・買い手の双方を支援する構図となるため、支援はあくまでも中立の立場から行える範疇になります。買い手のDDの対象となる資料の作成を売り手側で支援するといったところまでサポートが及ぶと、買い手の価格目線を意識して資料上の数値を調整する、成約を優先させて本来売り手が開示を予定していた情報を開示しないなど、利益相反リスクが高まります。
同様に、仲介会社が買い手の立場からDDを行うことも、利益相反の懸念が大きいことから中小M&Aガイドラインでは認められていません。DDは、買い手の立場から客観性のある分析・調査を実施することが求められますが、売り手・買い手の双方を支援する仲介サービスの利益相反構造ゆえに、重要な問題をDDで報告せずに成約を優先するリスクがあるというのがその理由です。
このように、仲介サービスに本来求められる中立性を維持するためには、許容されるべき支援業務の範囲は限られるのです。
一方で売り手FAは、売り手が最善の条件を勝ち取り、滞りなくM&A取引を実行できるよう支援する責任を負っています。売り手FAによるDD受け入れ支援は、売り手の事業計画など、買い手から求められる資料の作成支援にまで及びます。売り手が滞りなく買い手のDDを乗り切れるよう、買い手の質問事項の交通整理から質問に対する回答案の作成等の支援まで、必要なあらゆるサポートを提供していきます。売り手FAによるDD受け入れ支援は、仲介サービスよりもはるかに広範囲に及ぶといえます。
こうしたサービス間のDDにおける支援範囲の違いも、「中立の立場でマッチングを提供する」M&A仲介サービスと、「売り手の利益を追求する」売り手FAのサービス特性の違いゆえのものです。
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