スーパーマーケット業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

2024.11.23

公開日:2024.11.23

2024.11.23

2025.11.30

更新日:2025.11.30

2025.11.30

スーパーマーケット業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介

昨今、スーパーマーケット業界は需要が高まっており、M&A取引も活発に行われています。

スーパーマーケット業界では、多くの企業で競争環境の激化や人材不足が問題となっており、M&Aがこれらの課題を解決する有効な手段として注目されています。

では、具体的にスーパーマーケット業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新のM&A事情を解説し、さらに業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介します。スーパーマーケット業界でM&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。

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スーパーマーケット業界とは?業界の現状を解説

スーパーマーケット業界の動向

スーパーマーケット業界は、地域の生活に欠かせない食料品や日用品を安定的に供給する重要な役割を担っています。競争が激しくなる一方で、需要の変化や新たなサービスも広がっており、業界全体の仕組みや現状を理解することが重要です。

スーパーマーケット業界の定義

スーパーマーケットは、日常に必要な品物を一つの店舗でそろえられるため、多くの家庭にとって利用しやすい業態です。

生鮮食品や加工食品、惣菜をまとめて購入できる点は大きな利便性につながり、必要な物を短時間で準備できるため、忙しい家庭でも利用しやすい特徴があります。

また、各店舗は地域の特性に合わせた品揃えを進めています。地元の嗜好や生活習慣に合わせて商品を選ぶことで、地域に寄り添った売り場を構築しています。さらに、地場産品を取り扱う店舗も増え、生産者にとって販路拡大の機会となるケースもあります。

これらの取り組みは地域経済の循環にも良い影響を与えます。日常の買い物と密接に関わる業態であることから、スーパーマーケットは地域の生活基盤を支える存在として重要性が高いといえます。

スーパーマーケット業界の動向

全国スーパーマーケット協会の白書によると、2024年の全店売上高は25.4兆円となり、前年比103.9%を記録しました。食品需要は底堅く、長期的にも緩やかな成長が続いている点が特徴です。

一方で、競争環境は厳しさを増しています。特にドラッグストアが食品分野を強化したことで、地域の中小スーパーは顧客を奪われやすい状況が広がっています。

また、物流費や電気代の上昇が続き、コスト負担が大きくなる企業も少なくありません。仕入れ価格の変動も大きく、利益を安定させるには運営改善が求められます。さらに、人手不足は深刻で、セルフレジや省人化設備の導入が進むものの、現場の負担が完全に解消されているわけではありません。

加えて、ネットスーパーの利用増加も業界の流れを変える要因です。大手ECとの競争は厳しいものの、利便性を求めるニーズは確実に増えており、サービス改善に取り組む企業も増えています。

こうした背景から、業界は需要の安定と多様な課題が共存する局面にあるといえます。

スーパーマーケット業界の市場規模

スーパーマーケット業界の市場規模について、全国スーパーマーケット協会が公表している「2025年版 スーパーマーケット白書」によると、2024年時点で全国の店舗数は 23,039店舗 です。

地域別の動向を見ると、都市部では新規出店が続く一方、人口減少が進む地域では閉店ペースが上がるケースも少なくありません。

また、店舗形態の変化も顕著です。都市型の小型店舗と郊外の大型店舗が並行して増えており、店舗フォーマットの「二極化」が進んでいます。さらに、大手チェーンによるM&Aや業界再編も活発化しており、市場構造自体に変化が生じています。

規模の大きな企業は、仕入れや物流の効率化を進めやすく、店舗網を広げながら市場シェアを拡大しています。一方、中小企業は地域密着型の強みを生かし、地元の需要を丁寧に取り込むことで存在感を維持できます。

市場全体としては一定の規模を保っていますが、地域ごとの差は拡大傾向です。今後は企業規模やサービス内容によって成長に大きな差が生まれる可能性が高く、各社には明確な戦略が求められる局面といえます。

サービス・運営形態の多様化

スーパーマーケット業界では、地域のニーズや生活スタイルの変化に合わせて、サービスや店舗運営の形が多様化しています。都市部では短時間で買い物を済ませたい利用者が増え、小型店の出店が進みました。通勤途中でも立ち寄りやすい環境が整い、利用機会が増えています。

一方、郊外では駐車場を備えた大型店が支持されています。まとめ買いに対応するため、広い売場を生かした商品展開を進める店舗が多く、店内にベーカリーや精肉の対面コーナーを設けるケースも見られます。品質や鮮度を意識した売場づくりが強化されています。

さらに、デジタル技術を活用したサービスも拡大しています。ネットで注文し店舗で受け取る仕組みやセルフレジの導入が典型例です。加えて、高齢者向けの配送サービスや移動販売に取り組む企業も増えており、地域事情に応じた柔軟な対応が進んでいます。

このように、サービスと運営の多様化は、利用者の求める価値に応えるための重要な流れといえます。

高齢化社会の進展

高齢化が進む中で、スーパーマーケット業界には新たな役割が求められています。移動手段を確保しにくい高齢者が増え、買い物自体が負担になるケースも少なくありません。

このため、移動販売や宅配サービスを導入する企業が増えています。日常の買い物を支える取り組みが広がり、地域の生活を下支えする体制が整いつつあります。

店内環境づくりにも変化が見られます。商品を探しやすい表示を採用したり、手に取りやすい棚の高さに調整したりと、高齢者が安心して利用できる工夫が求められています。さらに、小容量商品や健康志向商品の強化も進み、需要に合わせた品揃えが欠かせません。

一方で、高齢化は人手不足を招く要因にもなっています。働き手が減る中では店舗運営の効率化が必要となり、セルフレジなどの省人化設備を導入する店舗も増えています。ただし、設備だけで課題が完全に解消されるわけではなく、現場に負担が残る場面もあります。

これらを踏まえると、スーパーマーケット業界に求められるサービスは多岐にわたるといえます。

コロナ禍の影響

コロナ禍はスーパーマーケット業界に大きな変化をもたらしました。外食を控える動きが広がり、家庭で調理する機会が増えたことで、食品や日配品の売上は伸び続けました。まとめ買いが増加し、来店頻度は減ったものの、客単価は上昇したと報告されています。

一方で、店舗運営の負担も増しています。アルコール消毒やレジ周辺の感染対策など、日常業務に加わる作業が多くなり、スタッフの負担は大きくなりました。物流面でも需要急増による欠品リスクが高まり、安定供給体制の再構築が求められました。

さらに、非接触を希望する利用者の増加を受け、セルフレジやキャッシュレス決済の導入が加速しました。ネットスーパーの利用も急増し、多くの企業が対応を迫られています。ただし、中小企業では物流拠点や人員の確保が難しく、サービス拡張が進みにくいケースもあります。

こうした動きを踏まえると、コロナ禍は売上を押し上げた側面がある一方で、店舗運営やサービス体制の見直しを促す契機になったといえます。今後は、変化した購買行動に対応しつつ、持続可能な運営モデルの構築が求められます。

スーパーマーケット業界のM&A動向とは?

スーパーマーケット業界のM&A動向

スーパーマーケット業界では、同業種間でのM&Aが活発に実施されています。今後も人口減少が進む中、他業種との競争は一層激化し、スーパーマーケット業界の市場規模も縮小していくことが予想されています。こうした状況の中で、イオンなどの大手企業による業界再編が早い段階から積極的に実施されてきました。

同業種間でのM&Aにより、売り手側は大手の傘下に入り、生き残りを図ることができます。一方、買い手企業は、事業拡大の実現が可能となります。今後も大手企業による中小企業の買収を通じて、業界再編がさらに進むと考えられます。

また、競争の激化を背景に、異業種間でのM&Aも多くなりました。事業エリアの拡大や好立地の獲得、ノウハウの共有、他店との差別化を図ることを目的としたM&Aが多く行われています。

特に精肉や鮮魚、惣菜などの部門で差別化を図るケースが増えており、企業ごとの得意分野を活かして異なる業態を融合させることで、事業の拡大や多様化、そして安定化が期待されています。

同業種間でのM&A

スーパーマーケット業界では、同業種間のM&Aが増える傾向が続いています。物価上昇や物流費の増加といった課題が重なり、単独企業では対応が難しくなっていることが背景にあります。企業同士が協力することで仕入れ条件を整えやすくなり、物流網の共有も進めやすくなる点が利点です。

加えて、店舗網が広がれば商圏が拡大し、集客力の向上にもつながります。地域密着で展開してきた企業にとっては、競合の増加によって経営環境が厳しくなる場面も多く、同業との連携が選択肢として浮上しやすい状況です。

一方で、統合後の運営体制やブランドの扱いには調整が欠かせません。品揃えやサービス方針をすり合わせるには時間が必要で、短期間では成果が見えにくいケースもあります。それでも、規模を拡大した企業は長期的に競争力を高めやすく、安定した収益構造を築きやすくなります。

こうした流れを踏まえると、同業種間のM&Aは変化が続く市場環境に対応するうえで重要な取り組みといえます。今後も地域性や企業規模に応じて再編が進む可能性が高いと見込まれます。

異業種間でのM&A

スーパーマーケット業界では、異業種とのM&Aが増加しています。競争が激しくなる中で、食品販売だけでは成長が難しくなり、他業種のノウハウを取り入れる必要性が高まっているためです。

特にドラッグストアやホームセンターとの連携は相性が良く、双方の強みを補完し合うことで商品力やサービスの幅を広げやすくなります。こうした組み合わせは、利用者にとっても選択肢が増える点で評価されています。

また、EC企業や物流会社との提携も進んでいます。ネットスーパー需要の拡大に伴い、オンライン販売の仕組みや配送体制を整える必要が高まり、異業種の技術や設備を活用しやすくなっています。この動きは利用者の利便性向上にも直結します。

一方で、企業文化や顧客層が異なる場合には調整が欠かせません。方針を共有できなければ、期待した効果が十分に発揮されない可能性があります。しかし、適切に連携を進められれば新たな市場を開拓しやすくなり、成長戦略としての重要性は一段と高まります。

スーパーマーケット業界のM&Aの流れ

スーパーマーケット業界のM&Aの流れ

スーパーマーケット業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。

1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補先企業との接触、意向受領表明
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

それぞれ詳しくみていきましょう。

Step1.M&Aの事前準備、M&A助言会社の選定

まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。

事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。

その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。

譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。

また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。

M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。

仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。

それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補を含む)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。

弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。

また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。

※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ譲渡候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補がM&Aを検討するための参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。

Step2.買い手候補との接触、意向表明受領

次に、買い手候補と接触します。

ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。

対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。譲渡側(売り手)はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。

売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。

そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。

Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング

意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終締結・クロージングです。

M&Aにおいては、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手側が実施する対象企業への調査がDDです。

買い手側にとってDDには、以下のような目的があります。

・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる

その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。

譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]

スーパーマーケット業界のM&Aのメリットとは?4つを紹介

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット

スーパーマーケット業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の4つが挙げられます。

・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・地域の消費者への影響を最小限に抑えられる
・プライベートブランドの取扱いにより、経営効率の改善が期待できる

・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

それぞれ詳しくみていきましょう。

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる

第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。

一方で、M&Aを実施することで従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット②:地域の消費者への影響を最小限に抑えられる

事業承継において廃業を選択した場合、店舗も閉鎖することになります。日頃から地域の消費者の生活を支えているスーパーマーケットがなくなることは、地域住民の生活に大きな影響を与えます。また、仕入先や取引先との契約を終了させる必要があり、債権・債務の整理など、さまざまな影響が自社および取引先に波及します。

一方で、M&Aを実施する場合、一般的には店舗の運営や既存取引先との契約関係を引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えられます。

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット③:プライベートブランドの取り扱いにより、経営効果の改善が期待できる

スーパーマーケット業界でM&Aを実施すれば、メーカーとの取引を一本化したり、物流を共通化したりすることで、スケールメリットによる収益力の改善が期待できます。また、知名度やブランド力の高いプライベートブランド(PB)を取り扱えるようにもなります。

特に、PBを有する大手企業の傘下に入れば、利益率の高いPBを活用して他店舗との差別化ができるようになります。大手の知名度とPBの導入によるシナジー効果により、業績の向上が期待できるでしょう。

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット④:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる

スーパーマーケット業界では後継者不足が深刻化しており、事業承継の手段としてM&Aを選ぶ企業が増えています。M&Aを活用すれば、後継者が不在でも事業を継続することが可能になります。

また、買い手企業の経営資源を活用することで、仕入れ・物流・人材面の負担を軽減でき、結果として経営リスクの低減につながります。

さらに、売り手企業にとっては、経営者が引退後の生活設計を立てやすくなる点も重要です。専門家の支援を受けながら手続きを進められるため、事業承継を円滑に進めやすくなります。

一方で、譲渡範囲や条件の整理には準備が必要です。早期に検討を始めることで、スムーズな引き継ぎにつながる可能性があります。

こうした背景を踏まえると、M&Aは経営リスクを抑えながら企業の将来を守る手段として、重要性が高まっています。

スーパーマーケット業界のM&Aの相場

スーパーマーケット業界のM&Aの相場

スーパーマーケット業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売上や利益、ブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。

これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。

その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。

スーパーマーケット業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。

・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ

インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。

理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。

本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。

マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。

・類似会社比較法
・類似取引比較法

類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。

具体的には、以下のように算定します。

EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。

また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。

企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。

企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値

第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。

なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。

しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。

M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]

 また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]

スーパーマーケット業界のM&Aのポイント

スーパーマーケット業界のM&Aのポイント

スーパーマーケット業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。

・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・強みとなる特徴を持った経営をする

それぞれ詳しく解説します。

スーパーマーケット業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する

M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。

真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウなどを含むFAサービスの品質が重要です。

スーパーマーケット業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する

売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。

税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においての現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。

スーパーマーケット業界のM&Aのポイント③:強みとなる特徴を持った経営をする

他店舗と比較して強みとなる特徴を持った経営をしていれば、買い手にとって魅力的な存在になり、よりよい条件での取引が期待できます。

例えば、商品のラインナップの豊富さや他店舗が実施していないオリジナルのキャンペーン、イベントなどが挙げられます。競合に負けない特徴を自店に持たせておくことが重要です。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例6選

スーパーマーケット業界のM&A売却事例

ここでは、スーパーマーケット業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の6つの事例を紹介します。

・株式会社クスリのアオキホールディングス×有限会社木村屋
・株式会社Olympicグループ×株式会社あまいけ
・株式会社マーキュリアインベストメント×デライトホールディングス株式会社

・エコス×ココスナカムラ
・イズミ×西友(九州食品スーパー事業)
・丸の内キャピタル×三浦屋

実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例①:クスリのアオキホールディングス×木村屋

クスリのアオキホールディングスは、傘下のクスリのアオキを通じて、スーパーマーケットを運営している木村屋を2024年8月21日に買収し、全株式を取得しました。クスリのアオキホールディングスは本取引に限らず、近年、異業種となるスーパーマーケットの株式取得を積極的に行っています。

クスリのアオキホールディングスは、ドラッグストアおよび調剤薬局の運営を中心に、利便性と専門性の強化をコンセプトとして食品販売にも力を入れています。北信越、東北、関東、東海、関西、四国の24府県に937店舗を展開しています。

木村屋は、千葉県で食品スーパーを4店舗展開し、設立以来、地域のお客様に支持され続けている企業です。

本取引により、クスリのアオキホールディングスは地域のお客様にさらに支持される店舗づくりができると判断しました。木村屋は、お互いの強みを活かした改装計画を策定し、より買い物しやすい店舗づくりを進めていくとしています。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例②:Olympicグループ×あまいけ

Olymipcグループは、食品スーパーマーケットを運営する、あまいけを2023年11月1日付で買収し、全株式を取得しました。その後、あまいけは、「OSCあまいけ」に名称を変更しました。

Olympicグループは、首都圏を中心にスーパーマーケット事業や総合ディスカウント事業、専門店事業などを展開し、食品スーパーマーケット事業の拡充と拡大を図っています。

あまいけは、東京都多摩地区を中心に、食品スーパー「あまいけ」を11店舗運営し、生鮮品やデリカを中心に地域密着型の店舗運営を行っています。

本取引により、あまいけがOlympicグループの一員となることで、多摩地区の店舗網の拡充や商品の調達、販売のノウハウの共有によるシナジー効果が期待されています。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例③:マーキュリアインベストメント×デライトホールディングス

マーキュリアホールディングスの傘下のマーキュリアインベストメントは、運営するマーキュリア日本産業成長支援投資事業有限責任組合が設立した特別目的会社を通じて、食品スーパー「クックマート」運営のデライトを傘下に持つデライトホールディングスに資本参加し、資本業務提携を結びました。デライトは社名を「クックマート」に変更しています。

マーキュリアインベストメントは、日本政策投資銀行を源流とするファンド運営会社で、非公開企業をはじめさまざまなオルタナティブ領域へ投資している企業です。国や世代の壁を越え、企業の成長を加速させるための支援を行っています。

デライトホールディングスは1983年に設立され、愛知県の東三河から静岡県の浜松エリアを中心にドミナント展開をしています。既存のチェーンストアの枠にとらわれず、独自の組織文化作りを基盤とした店舗運営で成長を遂げてきた企業です。

本取引は、マーキュリアインベストメントがデライトホールディングスの地域密着の理念に共感し、さらなる成長を加速させるパートナーとして伴走するために実施されました。今後、「クックマート」のさらなる成長とともに、新たな時代の問題解決に向けた事業モデル構築への取り組みに期待できるでしょう。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例④:エコス×ココスナカムラ

エコスは、2024年9月1日付でココスナカムラを買収し、全株式を取得しました。今回の買収により、エコスは都内での店舗網を強化し、都市部での事業拡大を進める方針です。

エコスは関東圏で食品スーパーを展開し、「エコス」「たいらや」など複数のブランドを運営しています。生鮮食品の充実と地域との関係づくりを強みとし、安定した店舗運営を行う企業です。

ココスナカムラは1978年設立で、東京都23区内を中心に食品スーパー7店舗とベーカリー1店舗を展開しています。小型店舗ならではの利便性と、地域に根ざした店づくりで支持を得てきました。

本件によって、エコスは都市型店舗のノウハウを吸収し、双方の持つ運営力を組み合わせることで、地域密着型の店舗価値向上が期待されます。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例⑤:イズミ×西友(九州食品スーパー事業)

イズミは、2024年8月1日付で西友の九州食品スーパー事業を吸収分割により承継しました。これにより、同地域での店舗網強化と事業拡大を一気に進める体制を整えています。

イズミは中国・四国・九州で「ゆめタウン」「ゆめマート」などを展開し、幅広い世代を対象にした総合的な小売サービスを提供する企業です。

一方、西友の九州食品スーパー事業は「サニー」ブランドを中心に69店舗を展開し、地域の日常生活を支える基盤として長く親しまれてきました。年商970億円規模を有し、地域密着の店舗運営を続けてきた点が特徴です。

イズミは九州でのドミナント戦略をさらに強化し、物流や商品供給の効率化による相乗効果が見込まれます。

スーパーマーケット業界のM&A売却事例⑥:丸の内キャピタル×三浦屋

丸の内キャピタルは、2021年8月1日付で、スーパーマーケット「三浦屋」を運営する親会社の株式を取得し、同社をグループ傘下としました。

丸の内キャピタルは、2008年設立の投資ファンドで、非上場企業への投資や企業再生支援を手掛けており、三菱商事・三菱UFJ銀行が出資する形で設立された背景を持ちます。

三浦屋は、東京都中央線・西武新宿線沿線を中心に食品スーパー事業および外販事業を展開しており、2012年に親会社に入った後も地域密着型の店舗運営を継続してきました。

M&Aにより、三浦屋は投資ファンドの経営支援を背景に企業価値の向上が見込まれます。丸の内キャピタルは都市部における食品スーパー展開の足掛かりとして活用できると考えられます。

スーパーマーケット業界のM&Aに関するよくある質問

スーパーマーケット業界のM&Aに関するよくある質問

スーパーマーケット業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。

理想の取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。

スーパーマーケット業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?

もちろん全国問わず、M&Aは可能です。

全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手側もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。

スーパーマーケット業界のM&Aに関するよくある質問②:よい条件で会社を売却できますか?

いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。

業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価の取得から始めるのが、よい選択であると考えられます。

スーパーマーケット業界のM&Aに関するよくある質問③:M&Aを実施する最適な時期はいつですか?

M&Aは、黒字を維持しているタイミングでの実施が理想的です。業績が悪化した状態で売却を試みても、買い手の言い値で金額が決定されたり、そもそも買い手が見つからなかったりなど、理想の取引から遠のいてしまう可能性があります。

特に、日銭商売であるスーパーマーケットは、日々現金収入があるため、業績や財務状況の悪化に気が付く時期が遅れ、気づいた時には倒産のリスクが目前に迫っているケースも少なくありません。また、数店舗を有するチェーンが全店舗を閉鎖するケースも実際に起きています。地域社会や消費者への影響を最小限にするためにも、業績が悪化する可能性がある場合は、黒字のうちにM&Aを実施することが望ましいでしょう。

まとめ

まとめ

スーパーマーケット業界では、競争環境の激化や人材不足が深刻な問題となっています。コンビニエンスストアやドラッグストアなど、さまざまな業態が競合する中で、M&Aを通じて事業拡大や生き残りを図るケースが増えています。

M&Aを実施することで、地域の消費者の生活を支え続けるとともに、経営効率の改善も期待できます。また、知名度の高いプライベートブランドの活用により競争力強化も可能です。

さらに、自社の強みを活かした経営を展開し、正当な財務状況を把握したうえで適切なM&A助言会社を選定できれば、理想のM&Aの実現に大きく近づけるでしょう。

オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。よりよい評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。

また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。

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この記事の著者

RISONAL 編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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