M&Aにおける表明保証条項とは?重要性や内容、注意点を解説
公開日:2026.03.31
2026.03.31
更新日:2026.03.31
2026.03.31
M&Aを進める中で、契約書の確認段階になって初めて表明保証条項という言葉に向き合い、「どこまで約束することになるのか」「売却後まで責任が残るのではないか」と不安を感じる経営者は少なくありません。安心して会社を引き継ぐためには、表明保証条項の意味と役割を正しく理解し、売り手として確認すべきポイントを押さえておくことが不可欠です。
売り手の立場で気を付けたいのは、条項が入ることそのものではありません。問題になるのは、どの事実を保証するのか、その保証がいつまで続くのか、例外をどこまで書き込めるのかという点です。ここを十分に詰めないまま契約すると、譲渡後に未払残業代や税務上の問題が見つかったとき、想定より広い負担を負うことがあります。
本記事では、表明保証条項の意味、役割、条項に入る内容、違反時の扱い、売り手が不利にならないための準備まで解説します。契約書の細部で後悔したくない方は、ぜひ最後までご覧ください。
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M&Aにおける表明保証条項とは
表明保証条項は、株式譲渡契約などの最終契約で置かれる条項です。売り手や対象会社に関する一定の事実が、契約締結時点やクロージング時点で真実かつ正確であることを前提として、買い手が取引を進めるために用いられます。買い手はこの条項を通じて、対象会社の状態に関する前提を契約書の中で担保します。
表明保証とは
表明保証とは、契約当事者が、一定の事実が真実かつ正確であることを相手方に対して述べ、その内容を保証することです。M&Aでは、契約締結日にその事実が成り立っていることだけでなく、クロージング時点でも同じ状態が維持されていることを求められる形が一般的です。
したがって、売り手としては、署名した時点の認識だけでなく、決済日までに変動する事項にも目を配る必要があります。
表明保証の重要性
表明保証が契約実務で問題になるのは、デューデリジェンスだけでは会社の実態をすべて把握できないからです。限られた期間の調査では、資料に出ていない運用や、過去から続く例外的な処理まで拾い切れないことがあります。
その空白を埋めるため、買い手は売り手に一定の事実を保証させます。売り手にとっては、この条項がそのまま譲渡後の責任につながるため、内容の確認を後回しにできません。
表明保証のメリット
売り手にとっても、例外事項や責任範囲を適切に整理できれば、譲渡後の見通しを持ちやすくなるという意味があります。把握している問題を事前に開示し、例外事項として契約書に落とし込めば、後で事実と違うと指摘される余地を狭められます。
何も書き込まないまま広い保証を引き受けるより、例外を明記したうえで責任範囲を区切るほうが、譲渡後の見通しを持ちやすくなります。
M&Aにおける表明保証の役割
表明保証条項は、契約書の体裁を整えるために置かれるものではありません。具体的には以下のような役割があります。
・デューデリジェンスを補完する
・リスク分担・交渉の基準になる
・契約後のトラブルを防止する
この役割を理解していないと、買い手がなぜその条項を求めているのかが見えません。その結果、幅広い保証を受け入れたうえで、責任期間や責任上限まで曖昧な契約になりやすくなります。売り手としては、条項の意味と負担の大きさを切り分けて確認する必要があります。
デューデリジェンスを補完する
DDでは、決算書や契約書、ヒアリング資料をもとに対象会社の状態を確認します。ただ、資料に現れない運用や、過去から続く例外的な処理まで短期間で把握するのは簡単ではありません。
表明保証は、そのような調査の空白を契約上で補う役割を持ちます。買い手はこの条項を通じて、調査で確認し切れなかった部分についても一定の裏付けを取ります。
リスク分担・交渉の基準になる
表明保証条項があると、どの問題を売り手が負担し、どの問題を買い手が価格に織り込んで取得するのかを話しやすくなります。たとえば、買い手が把握している問題をそのまま引き受けるなら、譲渡価格に反映する考え方もあります。
反対に、買い手が知らない問題まで売り手が保証するなら、責任期間、責任上限、少額免責や請求下限を置かないと、売り手の負担は広がりやすくなります。
契約後のトラブルを防止する
譲渡後に問題が見つかったとしても、契約上の責任分担が定まっていれば争点を絞れます。どの事実を保証したのか、例外として何を外したのかが契約書に明記されていれば、後から認識の違いで争う余地は小さくなります。
反対に、例外事項が曖昧なまま契約すると、買い手は広く請求し、売り手はそこまで負担するつもりはなかったと反論する形になりやすくなります。譲渡後の紛争を防ぐには、契約前の書き込みが欠かせません。
表明保証条項の内容
表明保証条項の中身は案件ごとに変わります。ただ、実務で入る事項には一定の傾向があります。売り手側の条項は、株主本人と対象会社の状態に関するものが中心です。買い手側の条項は、契約を締結し履行できる立場にあるかを確認する内容が中心になります。
・売り手側株主・対象会社に関する表明保証の例
・買い手側に関する表明保証の例
表明保証は売り手だけが負うものだと思われがちですが、買い手側にも一定の保証が入ることが多くあります。
売り手側株主・対象会社に関する表明保証の例
売り手側の表明保証では、株主本人に関する事項と対象会社に関する事項の両方が入ります。実務でよく記載されるのは、次のような内容です。
・株式を適法に保有し、譲渡する権限があること
・対象会社が適法かつ有効に設立され、存続していること
・開示した情報が重要な点で真実かつ正確であること
・重要な訴訟や行政処分の対象になっていないこと
・反社会的勢力との関係がないこと
・税務申告等が適法かつ適正に行われていること
売り手にとって特に注意が必要なのは、開示情報の正確性と例外事項の書き込みです。中小企業では、計算書類の誤りや労務管理上の例外的な処理が残っていることがあります。
そこを契約書へ反映しないまま広い保証をすると、後から事実と違うと指摘される余地が残ります。ひな形をそのまま使うのではなく、自社に当てはめて除外事項を入れる必要があります。
なお、表明保証条項では一見もっともらしく見える文言でも、売り手に不利な条件につながることがあります。契約書で注意したい表現は、以下の記事で詳しく解説しています。
【M&A】表明保証で「売り手の知りうる限り…」はNG 事業売却を不利にする「最終契約書の要注意ワード」
買い手側に関する表明保証の例
買い手側の表明保証では、契約を適法に締結し履行できる立場にあるかを確認する内容が中心になります。実務でよく入るのは、次のような内容です。
・適法かつ有効に設立され、存続していること
・本契約を締結し履行するために必要な権限を有していること
・法令や内部規則に反しないこと
・反社会的勢力との関係がないこと
・倒産手続の申立てがないこと
ここで確認したいのは、買い手が契約を実行できる状態にあるかどうかという点です。社内承認が必要なのに取れていない場合や、意思決定権限が曖昧な場合は、基本合意の後で手続きが止まるおそれがあります。
資金手当てそのものは別の確認も必要ですが、少なくとも契約を締結し履行できる立場にあることは、契約書の中で押さえておくべきです。
表明保証に違反した場合
表明保証違反があった場合、契約に基づいて売り手に以下のような金銭負担が発生することがあります。
・損害賠償請求を受ける可能性がある
・補償請求を受ける可能性がある
どちらも支払いにつながる点は同じですが、契約上の位置付けや計算方法が変わる場合があるため、売り手としては条文の立て方まで見ておく必要があります。
損害賠償請求を受ける可能性がある
表明保証した内容が事実と異なり、買い手に損害が出た場合には、損害賠償請求を受けることがあります。たとえば、重大な訴訟がないと保証していたのに後から訴訟が見つかった場合や、財務情報が重要な点で正確でなかった場合です。
売り手としては、賠償の対象となる範囲と請求できる期間を契約書で区切っておかないと、譲渡後の生活設計にまで影響が及ぶおそれがあります。
補償請求を受ける可能性がある
契約によっては、表明保証違反について損害賠償とは別に補償請求の形を取ることがあります。売り手として確認したいのは、補償の対象になる損失の範囲や請求できる期間、責任の上限額です。
これらが決まっていないまま契約すると、買い手から広い範囲の請求を受けた際に反論しにくくなります。最終契約では、補償の範囲を数字と期間で明らかにしておく必要があります。
表明保証を設定する場合の注意点
表明保証条項は、入っていれば安心というものではありません。どの事実を保証するのかを確認し、事実と異なる点があるなら契約前に開示して例外として扱う必要があります。具体的な注意点は以下の通りです。
・明確な情報開示をする
・虚偽の申告をしない
・自社だけで判断せず契約条件を精査する
表明保証で不利になるのは、意図的に事実を隠した場合だけではありません。売り手自身は問題がないと考えていた事項でも、契約上は表明保証の対象に含まれており、後から責任を問われることがあります。そのため、署名前に保証の範囲を確認しておくことが欠かせません。
明確な情報開示をする
買い手に伝えるべき事項は、契約前に明確に開示しておく必要があります。計算書類の誤り、許認可の例外事情、継続中の紛争のように、後で問題になりやすい事項を把握しているなら、そのままにせず契約書へ反映させるべきです。
事前に開示して例外事項として書き込めば、売り手が保証する範囲を限定しやすくなります。開示の不足は、そのまま譲渡後の請求リスクにつながります。
虚偽の申告をしない
事実に反する内容を表明保証すると、譲渡後に損害賠償や補償の対象になる可能性があります。特に、労務上の紛争や未払残業代、税務処理の誤りのように、後で金額が出やすい項目は注意が必要です。
知っていて隠すのは当然避けるべきですが、確認しないまま広く保証することにも危険があります。把握していない事項まで含めて保証していないかを契約前に見直す必要があります。
自社だけで判断せず契約条件を精査する
表明保証の条文は、見た目が似ていても責任の広さが異なります。責任期間の定めがない条項、責任上限の定めがない条項、適用場面が曖昧な条項には注意が必要です。経営者が自社だけで契約書を読んでも、どこまで負担が残るかを正確に把握するのは簡単ではありません。
契約条項の精査は弁護士を中心に進めつつ、全体の交渉方針や条件設計はFAや税務の専門家も含めて確認する必要があります。
売り手が表明保証で不利にならないために準備すべきこと
売り手が表明保証で不利になるのは、契約書の読み込み不足だけが原因ではありません。契約前の準備が足りないまま交渉に入ると、買い手から広い保証を求められても反論しにくくなります。契約段階で慌てないためには、事前の開示資料と社内確認が欠かせません。
・契約前に開示資料を整理しておく
・法務・財務・労務の論点を事前に洗い出しておく
・契約交渉は専門家を交えて進める
契約内容が売り手に不利な方向へ広がるのを防ぐには、準備段階での確認が欠かせません。
契約前に開示資料を整理しておく
開示資料が揃っていないと、買い手は広い保証を求めやすくなります。売り手としては、計算書類や主要契約、訴訟や紛争の有無、許認可の状況などを契約前に揃えておくべきです。
資料が揃っていれば、どの事項を例外として扱うかを買い手と詰めやすくなります。開示不足のまま契約すると、表明保証の対象範囲が広がりやすくなります。
法務・財務・労務の論点を事前に洗い出しておく
表明保証違反が問題になりやすいのは、後から見つかる未払い残業代や税務処理の誤りのような事項です。売り手としては、買い手から指摘される前に、自社のどこに問題が残っているかを把握しておく必要があります。
問題を把握しておけば、保証する事項と例外扱いにする事項を分けやすくなり、結果として譲渡後に紛争へ発展する可能性を抑えやすくなります。
契約交渉は専門家を交えて進める
表明保証条項は、契約書の中でも売り手の将来負担に直結しやすい部分です。責任期間、責任上限、少額免責、例外事項の書き方まで、条文の作り方で結果が変わります。売り手側に立つ弁護士やFAが入れば、買い手から提示された条項の妥当性を確認しながら交渉しやすくなります。
契約後に残る負担を抑えるには、署名直前ではなく、M&Aを検討し始めた段階から専門家を交えて進めるべきです。
まとめ
表明保証条項は、M&Aの最終契約において、対象会社や売り手に関する一定の事実が真実かつ正確であることを前提に取引を進めるための重要な条項です。買い手にとってはデューデリジェンスを補完し、契約後のリスク分担を明確にする役割があります。一方で売り手にとっては、譲渡後の補償責任や損害賠償責任に直結する論点でもあります。
特に売り手にとっては、以下のような論点が譲渡後の負担の大きさに直結します。
・表明保証の対象範囲を限定すること
・例外事項を契約書へ反映すること
・責任期間と補償上限を明確にすること
・開示資料の内容と契約条件を一致させること
重要なのは、表明保証条項を形式的な条文として扱わないことです。どの事実を保証するのかを十分に確認し、自社で把握している例外事項を事前に開示したうえで、契約上の責任範囲を整理する必要があります。
ここを曖昧にしたまま契約すると、譲渡後に想定以上の負担を負う可能性があります。そのため、開示資料の整理から契約条件の調整まで一貫して伴走できる専門家を入れることが、後悔のないM&Aにつながります。
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