M&Aの失敗事例11選|失敗の原因や成功させるポイントを紹介
公開日:2026.02.28
2026.02.28
更新日:2026.02.28
2026.02.28
「M&Aを検討してはいるが、もし失敗してしまったらどうしよう」「長年守ってきた会社や従業員を不幸にしてしまわないか」と、M&Aのリスクを前に足が止まってしまう経営者は少なくありません。譲渡価格などの条件も大切ですが、それ以上に失敗がもたらす影響は、経営者にとって極めて切実な問題でしょう。
実際、M&Aによって新たなステージへ駆け上がる会社がある一方で、事前の準備不足やミスマッチから巨額の損失を計上したり、組織が崩壊したりしてしまうケースも存在します。その明暗を分けるのは、失敗の本質を理解したうえでのリスク管理と、信頼できるパートナー選びです。
本記事では、M&Aにおける失敗の定義や具体的な原因、M&Aの失敗事例、押さえておくべき成功のポイントを解説します。
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M&Aにおける失敗の定義
M&Aにおける失敗とは、当初期待していたシナジー効果が得られないばかりか、予期せぬ損失やトラブルに直面することを意味します。M&Aでよくある失敗には、以下のようなものが挙げられます。
・企業イメージが悪化する
・買収後に粉飾が見つかる
・のれんの減損損失が起こる
・投資対効果が見込めない
これらは、相手先の吟味不足やPMI(M&A後の経営統合)の失敗に起因することが一般的です。それぞれの失敗について詳しく見ていきましょう。
企業イメージが悪化する
M&Aそのものが引き金となり、社内外からの信頼を失ってしまうことは、経営において取り返しのつかない失敗といえます。たとえ買収価格が妥当であったとしても、PMIでのボタンの掛け違いによりネガティブな評価が広まれば、ブランド価値は一気に毀損します。
特に、経営陣の交代や方針変更が強引に進められた結果、取引先からのクレームが発生したり、組織が機能不全に陥ったりするようなケースは、企業イメージ悪化の典型的なパターンです。一度失った信用を取り戻すのは容易ではなく、その後の事業運営に悪影響を及ぼすことになります。
買収後に粉飾が見つかる
買収前のデューデリジェンス(DD)が不十分であった場合、M&A後に労務や法務に関する重大なリスクや、想定外の負債が発覚することがあります。例えば、残業代の制度設計の違いから買収後に未払い残業代が発生し、買い手から損害賠償請求を受けるといった事例も存在します。
これは、帳簿上の数字だけでは見抜けない「隠れた債務」やコンプライアンス違反が後から表面化するものであり、深刻な財務的ダメージとなります。
のれんの減損損失が起こる
M&Aにおいて、相手先の吟味が不足したまま買収を行い、十分なシナジー効果が得られない場合、投資額に見合う価値を回収できず失敗に終わります。期待した収益力が実現できない場合、会計上、のれんの減損処理を迫られることになり、巨額の損失を計上するリスクがあります。
仲介会社任せで相手先を選んでしまい、自社との親和性やシナジーを十分に検証できていないことが、一因として挙げられます。
投資対効果が見込めない
M&Aの目的が曖昧なまま、案件を紹介されるがままに進めてしまうと、投資対効果が見込めない結果に陥ります。特に、仲介会社が買い手の意向を優先して売り手とのミスマッチが生じるケースでは、買収後の事業成長やシナジーが発揮されず、投資が無駄になる可能性が高まります。
売り手が自社の強みや課題を正しく把握し、補完・強化できる相手を選定できていない場合に起こりやすい失敗です。
M&Aが失敗する原因
M&Aが失敗する原因は売り手と買い手の立場によって異なりますが、準備不足や専門家の選定ミス、交渉力の格差などが主な要因として挙げられます。
・売り手がM&Aで失敗する原因
・買い手がM&Aで失敗する原因
それぞれの失敗原因を解説します。
売り手がM&Aで失敗する原因
売り手が失敗する主な原因は、自社の利益を守る体制が不十分なまま、不利な条件で交渉を進めてしまうことにあります。主な原因は以下の通りです。
・利益相反のある仲介会社を起用している
・契約条件の精査が不足している
・安易な株価評価で売却している
・買い手と1社だけで交渉している
これらの要因は、最終的な手取り額の減少や売却後のトラブルに直結します。特に、売り手と買い手の双方から手数料を得る仲介会社は構造的に利益相反となりやすく、売り手の利益最大化が難しくなる可能性があります。
また、買い手1社とのみ交渉する相対取引では競争原理が働きにくく、適切な評価額が設定されない可能性も考えられます。
M&Aの失敗について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
事業売却後に買主から〈損害賠償〉を請求されるケースも!…好条件での事業継承の実現を阻む〈あまりに巧妙なトラップ〉
買い手がM&Aで失敗する原因
買い手が失敗する主な原因は、買収前の調査不足やPMIの見通しの甘さです。具体的には、以下のような原因が挙げられます。
・DDが不足している
・PMIの計画が甘い
・シナジー効果を過大評価している
・専門家任せにしている
成約を急いで監査を簡易的に済ませると、買収後に簿外債務などの重大なリスクが発覚することがあります。また、シナジー効果を過信した高値掴みや、PMIの計画不足による従業員の離職も、典型的な失敗例です。
M&Aで統合が難航した事例11選
次に、以下の11社の事例を解説します。
・キリンホールディングス
・NTTコミュニケーションズ
・DeNA
・古河電気工業
・LIXIL
・東芝
・富士通
・HOYA
・資生堂
・マイクロソフト
・第一三共
各社の事例から、M&Aにおけるリスク管理の重要性を確認していきましょう。
キリンホールディングスの事例
キリンホールディングスは、ブラジルのビール事業(Brasil Kirin)において、事業環境の悪化に伴い1,100億円の損失を計上しました。
買収当初に想定していた市場成長シナリオが変化したことで投資回収の見通しが悪化し、のれん等の減損処理を含む業績予想の下方修正を行いました。
新興国の経済情勢や競争環境の変化が収益計画に与える影響が大きい点を示す事例です。
NTTコミュニケーションズの事例
NTTコミュニケーションズは、米国ISPのVerioを約6,000億円で買収しましたが、ITバブル崩壊の影響で事業価値が急落し、その後の決算で約5,000億円規模の減損損失を計上したと報じられています。
市場が過熱していた局面で巨額投資を行った結果、景気後退の影響を受け、のれんの評価見直しを迫られたケースとして整理できます。
大型投資では、マクロ環境の反転リスクを前提に、取得価格の妥当性や下振れ時の対応方針を検討する重要性が示唆されます。
DeNAの事例
DeNAは、ゲーム事業の収益性見直しに伴い、2020年3月期に総額約493億円の減損損失を計上しました。
この損失の多くは、買収や投資によって積み上げられたのれんの評価見直しによるものです。
変化の激しいエンタメ・IT業界において、買収時に想定した将来の収益計画が想定どおり進まない場合、のれんの減損として財務面に影響が表れ得ることを示す事例といえます。
古河電気工業の事例
古河電気工業は、2001年にLucent Technologiesの光ファイバ部門(OFS)を買収しています。一方で、ITバブル崩壊後に光ファイバ需要が落ち込み、光関連事業の収益環境が悪化したことが報じられました。
市場前提が急変する領域で大型投資を行う場合、回収シナリオの見直しが必要となり、事業全体へ影響が波及し得る点を示す例といえます。
LIXILの事例
LIXILはJoyou AGについて、破産手続申立てと、その背景として数年度にわたる不正会計が判明した旨を開示しています。
また、同件に関連して最大330億円程度の特別損失を見込むなど、損失影響を公表しました。
クロスボーダーM&Aでは、買収後のガバナンスや財務情報の実態把握の遅れが、損失計上に直結し得ることを示した事例です。
東芝の事例
東芝は、米国の原子力大手ウェスティングハウス(WEC)の買収に関連し、巨額の損失を計上しました。
買収後の建設コスト増大や工期遅延に加え、WECが米連邦破産法11条の適用を申請する事態となり、親会社保証などの追加負担が発生しました。
買収後の事業リスクに加え、契約上の保証・負担条件を含むリスク見積もりの精度が、買い手側の財務に大きく影響し得ることを示すケースです。
富士通の事例
富士通は、欧州子会社(FTS)に関連して、のれん等の無形資産について280億円の減損損失を計上しました。
欧州経済の悪化や競争激化により、買収当初の事業計画を見直さざるを得なくなったことが主因です。
海外M&Aにおいては、地域ごとの経済リスクや市場特性を慎重に見極める必要があり、シナジー効果の前提が想定どおり進まない場合に損失につながる可能性があることを示しています。
HOYAの事例
HOYAは、ペンタックスを買収し、医療分野などでのシナジーを模索しましたが、最終的にカメラ事業をリコーへ売却しました。
これは、買収後の事業運営の結果として、事業ポートフォリオの見直しを行った事例として整理できます。
M&Aは買うことがゴールではなく、買収後の事業運営を通じて、撤退や再売却を含む再編判断が必要になる場合があることを示唆しています。
資生堂の事例
資生堂は、米国の自然派化粧品会社ベアエッセンシャル買収に関連し、2017年に約655億円の減損損失を計上しました。
買収後のブランド成長が想定を下回り、収益計画の見直しが必要となったことが背景です。
ブランド価値や販路の維持・拡大が難しい消費財分野において、PMIでの成長戦略の具体化が財務インパクトに影響し得る点を示す事例といえます。
マイクロソフトの事例
マイクロソフトは、ノキアの携帯端末事業買収に関連し、約76億ドルの巨額減損損失を計上しました。
スマートフォン市場の競争環境の変化等により、買収時に見込んだシナジー効果や成長シナリオの見直しを迫られた結果として整理できます。
また、過去にはオンライン広告事業でも巨額の減損を計上しており、変化の速いテック業界において、買収価格の妥当性や撤退基準を明確にすることの難しさを示唆しています。
第一三共の事例
第一三共は、インドの後発薬大手ランバクシー・ラボラトリーズを買収しましたが、品質管理問題による米FDAの禁輸措置などを受け、最終的に同社をSun Pharmaへ吸収合併させる形で株式を放出しました。
結果として、投資方針の見直しと事業の整理(再編)に至ったケースとして整理できます。新興国企業におけるコンプライアンスリスクや品質管理の難しさが、クロスボーダーM&Aの成果に影響し得ることを示した事例です。
M&Aで失敗しないためのポイント
M&Aを成功させ、失敗のリスクを最小限に抑えるためには、事前の準備と戦略的な意思決定が不可欠です。ここでは、M&Aのプロセス全体を通じて意識すべき重要なポイントを解説します。
・自社の強みや課題を客観的に把握し、分析を徹底する
・何のためにM&Aを行うのか、その目的を明確にする
・自社に最適なM&Aの手法や全体の流れを慎重に検討する
・相手企業が信頼に足るパートナーかを確認する
・相手企業へのアプローチ方法を精査し、適切なルートを選ぶ
・M&A後の統合プロセスであるPMIの方針を事前にすり合わせる
・利益相反のない、M&Aに詳しい専門家に相談する
これらのポイントを守ることで、予期せぬトラブルや買収後のミスマッチを防ぐことができます。それぞれの詳細を見ていきましょう。
自社の分析を徹底する
M&Aを検討する際は、まず自社の経営資源や財務状況、市場における立ち位置を客観的に分析することが重要です。
自社の強みや弱みを正しく理解していなければ、売り手であればアピールポイントが不明確になり、買い手であればどのような企業を買収すべきかの判断軸が定まりません。自社の企業価値を正確に把握し、必要に応じて磨き上げ(バリューアップ)を行うことが、より良い条件での成約につながります。
M&Aの目的を明確にする
M&Aはあくまで経営戦略の手段であり、それ自体が目的ではありません。事業承継のためなのか、シェア拡大や新規事業への参入を目指す成長戦略なのか、目的を明確にすることが成功への第一歩です。
目的が曖昧なまま案件探しを始めると、仲介会社から紹介された案件に流されてしまい、シナジー効果の低い買収を行ってしまうリスクが高まります。自社のビジョンに基づいた戦略的な判断が求められます。
M&Aの手法や流れを慎重に検討する
M&Aには株式譲渡や事業譲渡、合併など複数の手法があり、それぞれ税務上のメリットや手続きの複雑さ、従業員への影響が異なります。
自社の目的や状況に最適なスキームを選択し、全体の流れを把握しておくことでスムーズな交渉が可能になります。特に、スケジュール感を持って進めることは重要ですが、焦って拙速な判断をすることは避け、各ステップの確認事項を明確にし、一つずつクリアしていく姿勢が必要です。
相手企業は信頼できるか確認する
書面上の数字や条件だけでなく、相手企業の経営者や企業文化が信頼できるかを見極めることは極めて重要です。特にトップ面談を通じて、経営理念や将来のビジョンを共有できるか、誠実な対応をしてくれるかを確認します。
相手先の選定において仲介会社任せにせず、自社との親和性を自ら判断することが大切です。信頼関係の欠如は、後の交渉決裂や統合後のトラブルの原因となります。
アプローチ方法を精査する
相手企業へのアプローチには、仲介会社を通す方法やFA(フィナンシャル・アドバイザー)を起用して直接打診する方法などがあります。アプローチの段階で情報漏洩が起きると、従業員の動揺や取引先とのトラブルを招く恐れがあるため、慎重な進め方が求められます。
また、誰を通じて話を持ちかけるかによって相手の心証も変わるため、相手企業の特性に合わせた最適なアプローチ方法を検討する必要があります。
M&A後のPMIの方針をすり合わせる
M&Aの成否は、PMIにかかっていると言っても過言ではありません。
統合後にどのような体制で事業を運営するのか、従業員の待遇や評価制度をどうするのかといった方針を交渉段階からすり合わせておくことが重要です。統合計画が不十分だと現場の混乱や従業員の離職を招き、期待していたシナジー効果が得られなくなるリスクがあります。
M&Aに詳しい専門家に相談する
M&Aは法務・税務・財務などの専門知識を要するため、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。ただし、仲介会社は売り手と買い手の双方から手数料を得るため、利益相反が生じる可能性があります。
自社の利益を最優先に考えてくれるFAなど、自社側の立場で動ける専門家を選ぶことが、失敗を防ぐための重要なポイントです。
まとめ
M&Aは、会社の未来を大きく切り拓く可能性を秘めている一方で、一歩間違えれば巨額の損失や組織の機能不全を招く「失敗」のリスクと常に隣り合わせです。今回ご紹介した11社の事例が示すように、どんな大企業であっても、市場環境の読み違いや統合プロセスの甘さが致命傷になることがあります。
しかし、これらの失敗は決して他人事ではなく、事前の徹底した分析と慎重な条件交渉、そして何より自社の利益を最優先に考えてくれる味方をつくることで、未然に防ぐことが可能です。経営者にとって、会社を譲渡することは人生の大きな決断だからこそ、単なる成約を目的とするのではなく、その後の持続的な成長まで見据えた戦略が欠かせません。
M&Aを真の成功に導き、会社と従業員の未来を確かなものにするためには、リスクを正しく恐れ、ビジョンを共有できる誠実なパートナーと共に歩むことが不可欠です。
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