食品スーパーの海外展開／DX経営管理／二輪部品再編――多様化するM&Aの動き

本記事では、2025年11月第4週に公表されたM&Aの中から、食品スーパー運営のOICグループ、クラウド会計大手マネーフォワード、および自動車部品製造子会社のスニック（スズキ系）による3件を取り上げます。

これらのM&Aは、業種も目的も異なりますが、いずれも既存の事業基盤を見直し、新たな成長機会を取り込もうとする「成長戦略型M&A」である点に共通しています。

OICグループが米ラーメンチェーンを買収（米国進出の足掛かり）

対象会社の概要

KEING CORPORATION（米国イリノイ州）は、ラーメン店「CHICAGO RAMEN」を中心に、米国で11店舗を展開する外食企業です。

買い手企業の概要

OICグループ（神奈川県川崎市）は、食品スーパー「ロピア」を中核に、卸・製造・貿易・外食などを手掛ける流通・小売グループです。

M&Aの背景と狙い

OICグループは10月30日付でKEING CORPORATIONの全株式を取得し、グループ化しました。これを契機に、米国での事業展開を本格化するとともに、グループ内にある日本食ブランド（ラーメン店「ソラノイロ」など）とのコラボや、米国での多業態日本食レストラン展開を視野に入れています。日本食の海外展開と流通・外食インフラの融合を狙ったクロスボーダーM&Aです。

案件カード

取引スキーム	株式取得（全株式）
実行日	2025年10月30日
取得金額	非開示
対象会社情報	KEING CORPORATION（米国イリノイ州／ラーメン店運営）
買い手企業情報	OICグループ（神奈川県／食品スーパーおよび流通・外食事業）
買い手の狙い	米国市場への拡張、日本食ブランドのグローバル展開とグループシナジーの最大化

マネーフォワード、取締役会DXベンチャー「ミチビク」を子会社化（経営管理DX強化）

対象会社の概要

ミチビク株式会社（東京都、2021年設立、売上高約8900万円）は、取締役会DXプラットフォーム「michibiku」や内部統制DXツール「conkan」を提供するベンチャー企業です。

買い手企業の概要

マネーフォワード株式会社（東京都）は、クラウド会計・経営管理SaaS「マネーフォワード クラウド」を中心に、企業のバックオフィスDX支援を手がけるIT企業です。

M&Aの背景と狙い

マネーフォワードは、11月28日付でミチビクの全株式を取得し、グループ会社化を決定しました。マネーフォワードの経営管理・会計SaaSと、ミチビクのガバナンス／取締役会DXプラットフォームを統合することで、企業の経営管理体制をワンストップで提供できるソリューションの拡充を狙います。特に内部統制やコーポレートガバナンスの強化需要が高まる中、DXによる効率化と価値提供を両立する動きと見られます。

案件カード

取引スキーム	株式取得（全株式）
実行日	2025年11月28日
取得金額	非開示
対象会社情報	ミチビク株式会社（東京都／取締役会DX・ガバナンスDXサービス）
買い手企業情報	マネーフォワード株式会社（東京都／クラウド会計・経営管理SaaS）
買い手の狙い	経営管理・ガバナンス分野におけるサービス拡充とDX体制の強化

スニックが新協技研を買収（スズキ二輪部品製造子会社の再編）

対象会社の概要

新協技研株式会社（愛知県豊川市／二輪車部品製造、設立1962年、売上高約9億9900万円）は、スズキ向け二輪部品の製造を主業とする製造会社です。

買い手企業の概要

スニック株式会社（静岡県磐田市／スズキの子会社、自動車部品製造） は、スズキの部品サプライチェーンに組み込まれている企業です。

M&Aの背景と狙い

2025年12月1日付で、サーラコーポレーションから新協技研の株式の51％を取得し、共同経営（合弁）体制へ移行しました。サーラコーポレーションは、新協技研の部品製造事業がエネルギー・住まい関連事業とのシナジーが弱く、資本効率を見直す判断をしました。一方でスニックは、既存の二輪部品製造網を拡大・統合することで、部品供給能力と生産安定性の強化を図るものです。

案件カード

取引スキーム	株式取得（51%、過半取得）
実行日	2025年12月1日
取得金額	非開示
対象会社情報	新協技研株式会社（愛知県／二輪車部品製造）
買い手企業情報	スニック株式会社（静岡県／自動車部品製造）
買い手の狙い	サプライチェーン再編による部品製造の安定化と効率化

まとめ

今回の3件には、業種・目的ともにバラエティがあります。だがそれぞれに共通するのは、「変化する市場環境に対応するための経営判断」である点です。

OICグループは日本食の海外展開という成長機会を掴み、マネーフォワードは企業のガバナンス／経営管理DXを強化し、スニックはサプライチェーン再編による生産効率改善を狙います。つまり、どの案件も「既存事業の延長線上」ではなく、「次の収益モデルの構築」「新たな事業基盤の確立」を目的としています。

こうした多角的なM&Aは、今後の市場全体の“多様化と選択と集中”への動きの先鋒と捉えることができます。

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