事業売却の“前”に知っておきたい「資産管理会社」の活用法

2025.01.14

公開日:2025.01.14

2025.01.14

2025.01.14

更新日:2025.01.14

2025.01.14

事業売却の“前”に知っておきたい「資産管理会社」の活用法

資産管理会社とは?

資産管理会社とは、現金や不動産、株式その他の金融商品等の資産の運用管理、その後の相続・承継を目的として設立する法人です。資産管理会社は個人とは別の法人格を有するため、資産管理会社に帰属する資産・負債も個人とは別管理となります。一般的に資産管理会社の収益は不動産収入(賃貸、売買)や株式配当、利息収入、キャピタル・ゲインなどから構成され、一般的な事業活動は行われない点に特徴があります。

資産管理会社は、売却が完了したあとに設立することもできますが、基本的には納税後の手取り資金を元に資産管理会社に移管することになってしまいます。この点、譲渡手法を工夫することで、譲渡による課税を発生させることなく資産管理会社に余剰資金などを移管できる場合があります(⇒関連記事『【M&A】余剰現金を「譲渡対象外」とするには?売り手オーナー経営者が知るべき“譲渡手法”の工夫』)。これから本稿でお話しする内容を踏まえ、事業売却後に資産管理会社を活用したいと考える場合には、M&Aの実行段階からどのような工夫が考えられるか、FAや税理士を交えて準備を進めておくとよいでしょう。

資産管理会社のメリット

それでは具体的に、資産管理会社を設立するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。主なメリットを順に見ていきましょう。

①相続対策

将来の相続を考える必要がある場合、資産管理会社の活用によって資産を一元管理できるようになるだけでなく、相続時の手続きをシンプルにすることが可能です。

個人で所有する財産を相続する場合は、個々の財産について相続が必要となります。不動産などの分割が難しい資産の場合は相続人間で争いとなることもありますし、さらには持分の分割や不動産登記など煩雑な手続きも生じます。この点、資産管理会社で資産を保有しておけば、相続の際にも資産管理会社の株式を分割するだけで済み、複雑な相続手続きも不要です。相続財産が資産管理会社株式であれば、不動産投資や保険、オペレーティングリースの活用などによって相続税評価額を引き下げる対策も考えられます。

②節税効果

個人に課される所得税は累進課税で、最大税率は45%、住民税と合わせると55%です。一方で、法人に課される法定実効税率33.58%(東京都の中小法人の標準税率のケース)と、個人の所得税率を大きく下回ります。そのため、個人ではなく資産管理会社で所得を計上することで節税効果を得られる場合があります。

また、一定条件を満たすグループ法人からの配当金について、資産管理会社で配当金を受け取る形とすれば「受取配当金の益金不算入制度」を活用することが可能です(大口株主が個人でグループ法人からの配当金を受け取る場合、総合課税となり上述の累進課税となります)。

一方で、その他一般の金融商品の配当金や金利、キャピタル・ゲイン(株式譲渡所得)に関する個人に対する課税は、源泉分離課税で所得税・復興特別所得税および住民税を合わせて20.315%と法人に課される法定実効税率より低くなっているため、資産管理会社を活用する場合のデメリットとなる可能性があります。資産管理会社における損金計上のメリットも考慮して総合的な判断が必要となるため、税務専門家を交えた検討を行うことをおすすめします。

③所得分散

オーナーの配偶者やお子様などを資産管理会社の役員あるいは従業員として迎え、会社から役員報酬、従業員給与などを支給することによって、オーナー個人に集中していた所得を家族に分散することが可能です。資金の移転を進めることで、相続人が将来の納税資金を蓄えることにも繋がります。なお、支給した役員報酬等は、一定の条件のもと法人の損金として計上することが可能です。

個人間での贈与によって同様の所得分散を実現しようと考えた場合、一度個人で課税を受けたあとの資金から贈与を行う必要があります。贈与には年間110万円の非課税枠はあるものの、最大で55%の贈与税率が適用されることとなります。資産管理会社を活用することで、より効率的な所得分散に繋がる可能性があるのです。

なお、非上場会社において役員報酬の損金算入が認められるためには、定期同額または事前確定届出の要件を満たす必要があり、かつ、役員の職務内容や会社の状況、同業・同規模他社の状況などに照らして過大に支給されていると判断される場合には、経費として認められない可能性があるため注意が必要です。一時的にプライベートの支出が増えたからといって、簡単に役員報酬額を変更することは認められないのでご注意ください。

④その他:法人におけるメリット

そのほかのメリットとして、資産管理会社においては、個人と比較して経費の範囲が広がることが挙げられます。前述の所得分散で解説した役員報酬・従業員給与のほか、生命保険費用(法人が契約者)、社宅家賃、福利厚生費用などは資産管理会社における経費として認められうるものですが、原則として個人では損金計上が認められないものです。交際費についても基本的に個人では経費計上が認められませんが、法人であれば事業活動に関連する範囲で経費計上することが認められます。

このほか、個人と比較して欠損金の繰越控除の期間を延長できるメリットもあります。欠損金の繰越控除とは、事業活動から生じた損失を翌期以降の事業年度に繰り越して、利益と相殺することができる制度のことです。個人事業主の場合の繰越期間は最長3年(青色申告の場合)ですが、法人であれば最大10年間の繰越が認められます。

資産管理会社のデメリット

一方、資産管理会社を活用する際にはデメリットも存在します。具体的なデメリットとしては、資金使途が制限されることが挙げられます。個人が保有する現金であれば、自由に使途を考えることができますが、法人に帰属する現金の場合は、定款で定められる事業の活動に使途が制限されます。オーナーやそのご家族の私的な使途には支出が認められません。使途に制限なく、プライベートの支出に充てるためには、前述の役員報酬や配当などの形で個人の所得税・住民税を支払ったあとの手取りから行うことになります。

このほか、資産管理会社の設立・維持には一定のコストが生じます。とはいえ、富裕層の資産管理会社の活用の文脈で大きな論点になることは稀ですので、ここでは詳細は省略します。

資産管理会社を設立するなら、株式会社か合同会社か

資産管理会社の形態として、株式会社のほかに合同会社が採用されるケースもあります。

株式会社に対し、合同会社は役員の任期がなく株主総会の開催や決算公告も不要であるといった運用面での利便性があるほか、設立時においても手続きが簡素で設立費用が安いという利点があります。

他方、株式会社であれば持分比率や種類株式による柔軟な意思決定の設計が可能です。合同会社も、設立時の定款設計で工夫をしておくことで「社員(=出資者)1人に議決権1票」という合同会社の原則を修正することは可能ですが、所有と経営の分離を前提とした株式会社のほうが、設計の柔軟性の観点ではメリットを取りやすいといえるでしょう。

【参考】資産管理会社株式のM&Aによる売却

一次相続が完了したタイミングなどで、資産管理会社の役目が終わったと判断することがあります。こうした役目の終わった資産管理会社を清算する場合には、各株主への残余財産の分配は配当扱いとなります。配当金は総合課税として最大49.4%(配当控除〔所得税5%、住民税1.4%〕および復興特別所得税を考慮して概算した実効税率)が適用されます。一方で、資産管理会社の株式をM&Aで譲渡することができれば、譲渡益に対する課税は20.315%であり、手取り金額を大幅に増やすことができます。

現金や換金可能な資産を保有するシンプルな構造の資産管理会社を買い受けたい買い手がいるのだろうかと疑問に思うかもしれません。しかし、実はこうした資産管理会社を引き受けたいという買い手のニーズは一定数存在します。資産管理会社が保有する資産評価額に対して10%のディスカウントで譲渡したとしても、手取り割合は【(1-10%)×(1-20.315%)】=71.7%となり、清算した場合の手取り割合【1-49.4%(最大税率)】=50.6%と比較しても大幅に手取りを増やすことが可能となります。

この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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