葬祭業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介
公開日:2024.11.23
2024.11.23
更新日:2026.04.22
2026.04.22
昨今、葬祭業界は高齢化による需要増が見込まれており、M&A取引が活発に行われています。
しかし葬祭業界では、後継者不足や葬儀費用の低下などに悩む企業も少なくありません。こうした問題を解決する手段として、M&Aが注目されています。
では、具体的に葬祭業界のM&A事情はどのようになっているのでしょうか。本記事では、最新の葬祭業界のM&A事情について解説します。さらに、M&Aのメリットや事例も紹介しているため、葬祭業界でM&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。
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葬祭業界とは?業界の現状を解説

葬祭業界とは、具体的にどのような業界なのでしょうか。ここでは葬祭業界の定義や業界の動向などについて、詳しく説明します。
葬祭業界の定義
葬祭業界における「葬祭」とは、遺体の埋葬・葬儀に関する一連の業務を担う事業です。遺族との打ち合わせや各種手配、葬儀場の設営・運営、さらには営業活動まで、故人を見送るための包括的なサポートを行うのが葬祭業の役割です。
近年では、社会の価値観やライフスタイルの変化により、埋葬方法や葬儀の形式も多様化しています。
しかし、「人の死」を扱うという普遍的かつ重要な業務である以上、常に厳粛かつ冷静に対応する姿勢が求められます。
葬祭業界の動向
矢野経済研究所「葬祭ビジネス市場に関する調査(2025年)」によると、2024年の国内葬祭ビジネス市場規模(事業者売上高ベース)は前年比108.2%の1兆8,300億円と推計されています。2025年も1兆8,633億円まで緩やかに拡大する見通しです。コロナ禍による落ち込みからの回復が進み、市場は再び拡大基調に入っています。

参照:矢野経済研究所「葬祭ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)」
厚生労働省「令和6年(2024年)人口動態統計」によると、2024年の死亡数は160万5,378人で過去最多を記録しました。2010年の約119万人から14年間で約40万人以上増加しており、葬儀件数の底堅さを支える構造的な要因となっています。
高齢化の進行を背景に、葬祭業界の需要は拡大していますが、一方で葬儀費用は低下傾向にあります。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」をもとにした分析によると、葬儀1件あたりの売上高は、2019年の134.5万円から2022年には113.3万円まで低下しています。2000年を100とした場合の葬祭単価指数は約81.8とされており、約20年間で1件あたりの単価が2割程度下落した計算になります。
コロナ禍をきっかけに、親族のみの少人数葬儀や家族葬が広がり、葬儀全体の主流となりつつあります。直近の調査では、葬儀形式の構成比は、家族葬が50.0%、一般葬が30.1%、一日葬が10.2%、直葬・火葬式が9.6%とされており、家族葬が主流の形式となっています。
終活意識の浸透により、事前相談や生前からの情報収集の重要性も高まっています。近年は、葬儀そのものだけでなく、事前相談、会員制度、アフターサポートまで含めた総合的な対応力が、葬儀社の選ばれやすさを左右する要素になっています。
葬祭業界のM&A動向

葬祭業界では、高齢化による後継者不足や不安定な経営を解消する手段として、M&Aが進められています。先述した通り競争が激化している中で、大手企業とM&Aを実施すれば、安定した経営が可能となり、大手の技術やノウハウを活用した事業展開ができるでしょう。
同業種間とのM&Aは、大手企業が地域の中小企業と実施するケースがほとんどです。同業種間でのM&Aを実施すれば、事業規模やエリアの拡大に期待できるでしょう。近年は大手企業による業界再編も進み、同業種間のM&Aは今後も活発化していくと予想されます。
さらに、葬祭業界では異業種とのM&Aも増加しています。特に小売業やホテル業、鉄道業界をはじめとして、さまざまな業界からの参入が顕著です。今後も異業種とのM&Aは継続的に実施されると考えられています。
2040年以降の需要減少リスクと「売り時」の考え方
死亡数の増加は今後もしばらく続くと見込まれていますが、長期的にはピークアウトする時期が到来します。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、死亡数のピークは2040年前後と想定されており、それ以降は人口減少に伴って死亡数自体も減少に転じる可能性があります。
これは葬祭業界にとって、2040年以降に葬儀件数が頭打ちとなり、市場が縮小に向かうリスクがあることを意味します。葬儀単価の下落傾向が続く中で件数まで減少すれば、企業価値の算定においてもマイナス要因として見られやすくなります。
こうした将来の市場環境を見据えると、「需要が堅調な今のうちに売却する」という判断は、合理的な選択肢のひとつです。実際に、40〜50代のオーナー経営者が、ご子息・ご息女に将来の縮小市場で苦労を残すよりも、企業価値が適正に評価されやすい今の時点で第三者への承継を選ぶケースも見られます。
M&Aの「売り時」を考えるうえでは、「企業価値が高く評価されやすい時期に、良い条件で譲渡する」という視点が重要です。
葬祭業界のM&Aの流れ

葬祭業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。
1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補との接触、意向受領表明
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
それぞれ詳しくみていきましょう。
Step1.M&Aの事前準備、M&A助言会社の選定
まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。
事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。
その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。
譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。
また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。
M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。
仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。
それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補を含む)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。
また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。
※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ譲渡候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補がM&Aを検討するための参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。
Step2.買い手候補との接触、意向表明受領
次に、買い手候補と接触します。
ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。
対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。譲渡側(売り手)はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。
売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。
そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終締結・クロージングです。
M&Aにおいては、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。
買い手にとってDDには、以下のような目的があります。
・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる
その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。
譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]
葬祭業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

葬祭業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
・従業員の雇用を守れる
・後継者問題を解消できる
・個人保証を解除できる
・譲渡利益を獲得
・事業拡大、発展の可能性が高まる
それぞれ詳しくみていきましょう。
従業員の雇用を守れる
第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。
一方で、M&Aを実施することで、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。
後継者問題を解消できる
高齢化が進む中で、後継者が見つからないことは経営者にとって大きな問題です。後継者不足によって廃業せざるを得ないケースも少なくありません。
M&Aは後継者問題の解決に有効な手段であり、これにより新たな後継者を確保することが可能です。新たな後継者が見つかれば、廃業せずに事業を継続できるでしょう。
個人保証を解除できる
中小企業では、金融機関から借入れをする際に経営者が個人保証を行うケースが一般的です。経営者保証のガイドラインが策定されたものの、現状では完全な解決には至っていません。
M&Aを行うと、売り手の借入れ返済義務を買い手が引き継ぐ形となるため、買い手と協力して金融機関に対し、売り手である経営者の個人保証を解除する手続きを行います。
譲渡利益を獲得
M&Aを実施するメリットのひとつに、譲渡利益の獲得があります。
譲渡利益とは、経営者が保有する株式を譲渡した際に得られる対価のことで、株主である経営者自身が直接受け取ることができる利益です。
この譲渡利益は、老後の生活資金として活用できるほか、新たな事業への投資や、個人的な用途、既存の負債の返済など、幅広い目的に充てることが可能です。
一方、M&Aではなく廃業を選択した場合、登記の抹消や資産整理など、さまざまな手続きに時間と費用がかかるうえ、現金として手元に残る資産は限定的です。
しかしM&Aを選べば、これらの煩雑な手続きやコストを回避しながら、多額の現金を譲渡利益という形で受け取ることができます。
事業拡大、発展の可能性が高まる
M&Aにより得られる最大の利点は、自社単独では実現が難しかった資本力や優秀な人材の確保です。
これにより、これまで資金や人材不足によって実行できなかった新規事業への参入や、新たなサービス開発のための初期投資が可能になります。
さらに、事業の発展やサービス品質の向上にもつながり、中長期的な企業成長の大きな原動力となるでしょう。
葬祭業界のM&Aの相場

葬祭業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売上やブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。
これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。
その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。
企業価値を算定する
葬祭業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
・類似会社比較法
・類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]
葬祭業特有の評価ポイント
葬祭業のM&Aでは、一般的な企業価値算定に加えて、以下のような業界固有の要素が評価額に大きく影響します。
| 評価ポイント | 内容 |
|---|---|
| 会員数と事前契約数 | 葬儀社にとって、既存の会員数は将来の施行件数を見通すうえで重要な指標のひとつです。会員数が多く、かつ会員経由の施行比率が高い企業は、安定した収益基盤を持つと評価されやすくなります。事前契約の件数も、将来需要の見込みとして評価される傾向があります。 |
| 会館ネットワークと立地 | 自社で保有・運営している葬儀会館の数や立地は、地域シェアに直結しやすい重要な資産です。特に、火葬場へのアクセスが良い立地に複数の会館を構えるドミナント型の展開ができている企業は、買い手にとって魅力が大きいといえます。会館の稼働率も評価のポイントとなります。 |
| 受注構成の内訳 | 全施行件数のうち、会員施行、非会員施行、ポータルサイト経由、病院・施設からの紹介がそれぞれ何%を占めるかという受注構成は、収益の安定性と将来の予測精度を左右します。会員施行や紹介経由の比率が高いほど、広告費に依存しない安定した集客基盤があると判断されます。 |
| 寺院・互助会との関係性 | 葬祭業は地域密着性が高く、寺院や互助会との長年の信頼関係が事業基盤を支えています。こうした関係性は数値化しにくい無形資産ですが、買い手にとっては地域でのシェア維持に重要な要素であり、のれん(営業権)の評価に影響することがあります。 |
| 人材 | 葬祭ディレクター資格の保有者数や、経験豊富な施行スタッフの在籍状況も評価対象です。葬祭業は労働集約型のサービスであり、人材の質がサービス品質に直結します。キーパーソンがM&A後も継続して勤務する見込みがあるかどうかも、買い手が重視するポイントです。 |
葬祭業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

葬祭業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・長期的な視点を持って取引を進める
・会館・建物の法令適合状況を確認する
・会員基盤と受注構成を把握する
・適切なM&A助言会社を選定する
それぞれ詳しく解説します。
自社の正当な収益力・財務状況を把握する
売り手にとって、自社をよい条件で売却するために必要なのは、自社の正当な収益力・財務状況の把握です。
税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上している中小企業は数多くあるため、具体的な買い手候補にアプローチする前に、自社の実質的な収益力や、貸借対照表においても現金化可能資産や非事業用資産を確認し、実質的な自社の財務状況の把握が必要です。
長期的な視点を持って取引を進める
M&Aを実施する際、目先の利益ばかりを重視してしまうと、さまざまなリスクやトラブルを招く可能性があります。たとえば、従業員が新たな企業文化や業務環境になじめず、離職や転職につながるケースも少なくありません。
また、企業価値を正しく評価できないまま進めてしまうと、本来よりも低い価格での買収となり、売り手側にとって大きな損失となることもあります。
こうした事態を避けるためには、短期的な利益にとらわれず、長期的な視点でM&Aを計画・実行することが不可欠です。
特に競争が激化している葬祭業界においては、M&Aは生き残りと成長を図るための有効な手段であり、慎重かつ戦略的に進めることが成功の鍵を握ります。
会館・建物の法令適合状況を確認する
葬儀会館は、建築基準法上の用途として「集会場」に該当します。売却を検討する際には、自社の会館が以下の点を満たしているかを確認しておくことが重要です。
・建物の用途が「集会場」として申請されているか
・建築確認申請書・検査済証が保管されているか
・消防検査(消防完了検査)が適切に実施されているか
これらの書類が揃っていない場合、DD(詳細調査)の段階で買い手から指摘を受け、譲渡価格の減額要因となったり、場合によっては取引自体が成立しにくくなったりするリスクがあります。特に大手企業が買い手の場合、コンプライアンスの観点からこの点を厳格に確認する傾向があります。
万が一、会館内で事故が発生した際に建物が法令に適合していなければ、買い手にとって重大なリスクとなるためです。売却を検討し始めた段階で、自社の会館の法令適合状況を確認し、不備がある場合は事前に是正しておくことが望ましいです。
会員基盤と受注構成を把握する
買い手がM&Aを検討する際に重視する指標のひとつが、「将来どの程度安定的に施行件数が見込めるか」という点です。そのため、売却前に自社の会員基盤と受注構成を正確に把握しておくことが重要です。
具体的には、以下の項目を確認しておきましょう。
・現在の会員世帯数
・直近1年間の施行件数と、そのうち会員施行・非会員施行・ポータルサイト経由・病院・施設紹介のそれぞれの比率
・会員の新規獲得ペースと解約率の推移
・定期的な会員接点(終活セミナー、事前相談会等)の実施状況
会員基盤が厚く、安定的な施行件数が見込める企業は、買い手にとって将来の事業計画が立てやすく、高い評価につながりやすくなります。一方で、ポータルサイトや広告経由の施行に依存している場合は、集客の持続性への懸念から、評価が慎重になることもあります。
会員を集めるためのマーケティング施策や、新たな出店余地があるかどうかなども含めて、自社の成長可能性を示せる状態にしておくことが、より良い条件での売却につながります。
適切なM&A助言会社を選定する
M&A助言会社に求められる能力は、法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、顧客の立場に寄り添って助言を提供できる立ち位置であること、M&Aの売り手・買い手の双方の行動原理を理解しそれを交渉に活かせること、と多岐に渡ります。
真に顧客に寄り添える立場であるか、また、上記を見極めるためにも売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介会社ではなく、売り手と同じ船に乗り事業オーナーに対し助言する会社(FA)であるかを選定することが重要です。また、その会社に在籍するアドバイザーの知識や経験、ノウハウなどを含むFAサービスの品質が重要です。
葬祭業界のM&A売却事例6選

ここでは、葬祭業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の3つの事例を紹介します。
・株式会社きずなホールディングス×有限会社備前屋
・しこく創生投資事業有限責任組合×株式会社エレナ
・ハラダ製茶販売株式会社×株式会社すどう
・平安レイサービス×さがみライフサービス、シンエイ・クリエート・サービス
・アルファクラブ武蔵野株式会社×ケイズハウジング
・木下株式会社×アイ・セレモニー
実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。
葬祭業界のM&A売却事例①:きずなホールディングス×備前屋
きずなホールディングスは、2021年1月27日付で葬儀葬祭業の有限会社備前屋を3億2,000万円で買収し、全株式を取得しました。
きずなホールディングスは、グループ全体の経営戦略の立案や推進、管理を行い、葬儀葬祭事業も展開しています。
備前屋は、1970年に設立され、売上高は2億9,900万円です。岡山県瀬戸市を中心に家族葬・一般葬を手がけており、3つの直営ホールを運営しています。主な事業内容は、葬儀全般、法要、仏壇・仏具・墓石・墓地の販売です。
本取引によってきずなホールディングスは初めて中国エリアに進出しました。備前屋の経営基盤をベースに、グループの出店、マーケティング、多店舗展開ノウハウを融合させ、シナジー効果の創出を目指しています。
葬祭業界のM&A売却事例②:しこく創生投資事業有限責任組合×エレナ
しこく創生投資事業有限責任組合は、2020年12月18日付けで葬儀業を展開するエレナを買収し、全株式を取得しました。
しこく創生投資事業有限責任組合は、四国アライアンスキャピタルが運営し、事業承継に課題を持つ企業や、さらなる成長を目指す企業を支援しています。
エレナは1939年に設立され、祭壇生花にこだわり、優雅な葬儀の提供を強みとしています。近年は「家族葬ならエレナ」を掲げ、多様化するニーズに対応した事業も展開しています。
本取引により、四国アライアンスキャピタルは複数の役員を派遣し、エレナの役職員と協働して持続的な成長・発展を目指しています。オーナーによる同族経営から組織的経営への移行をサポートし、次世代へのスムーズな承継を実現できるでしょう。また、エレナの事業オーナーは投資ファンドを活用し、従業員の雇用維持と企業成長を追求しながら、目的とする事業承継を果たしました。
葬祭業界のM&A売却事例③:ハラダ製茶販売×すどう
製茶大手のハラダ製茶販売は、2020年9月に葬儀場を運営するすどうを買収し、全株式を取得しました。
ハラダ製茶は、グループ会社のハラダ協同サービスを通じて、岡山県や広島県を中心に11のホール・事務所を展開し、さらに茨城共同サービスが茨城県内に21のホール・事務所を展開しています。また、2020年からは青森県で葬儀場の運営受託も実施しています。
すどうは1995年に設立され、栃木県内で2つの葬儀場を運営しており、祭壇、式場はもちろん、エントランス、ホール、控室、会食場など、ホール全体が居心地のよい空間になるためのサービスを提供しています。
本取引によって、ハラダ製茶は香典返し用の茶製品の取引量増加や、葬祭事業の強化を図っています。さらに、グループ全体の事業規模の維持や収益確保につながると判断し、M&Aを実施しました。
葬祭業界のM&A売却事例④:平安レイサービス×さがみライフサービス、シンエイ・クリエート・サービス
平安レイサービスは、さがみライフサービスとシンエイ・クリエート・サービスの全株式を取得し、子会社化することを2019年11月29日付で発表しました。
平安レイサービスは神奈川県に本拠地を置き、県内でもトップクラスの冠婚葬祭会社となっています。
さがみライフサービスは1998年に設立され、葬儀請負を行っている企業です。
シンエイ・クリエート・サービスは1990年に設立され、ホテル経営を行っている企業です。
本件M&Aによって、平安レイサービスはM&Aにより営業エリア拡大を狙い、経営基盤の強化を目指しています。
葬祭業界のM&A売却事例⑤:アルファクラブ武蔵野×ケイズハウジング
アルファクラブ武蔵野は、2024年3月29日付でケイズハウジングが運営する「ほぐし屋 いこい」について事業譲受しました。
アルファクラブ武蔵野は葬祭事業やブライダル事業、互助会事業、レジャー事業を展開しており、葬祭ブランド「さがみ典礼」を、埼玉県内119施設で運営しています。
ケイズハウジングはリラクセーション・スポーツジムなど「人のココロとカラダを元気にする」事業を展開している企業です。運営している「ほぐし屋 いこい」は、埼玉県・栃木県・群馬県に19店舗を運営するリラクセーションサロンです。
本件M&Aによって、アルファクラブ武蔵野はリラクセーションにおける技術・経験を取り込み、遺族へのケア、冠婚葬祭以外のサービス提供を目指しています。
葬祭業界のM&A売却事例⑥:木下株式会社×アイ・セレモニー
木下株式会社は2019年10月1日付けでアイ・セレモニーの株式を95%取得しました。
木下株式会社は冠婚葬祭の施行業務や文化事業を展開している企業です。
アイ・セレモニーはアイ・ケイ・ケイの連結子会社で、佐賀県伊万里市を中心として、葬祭事業を展開しています。
本件M&Aによって、木下株式会社は九州北部における事業拡大を図り、共同仕入等のスケールメリットを含めたコスト競争力を生み出し、アイ・セレモニーの持続的な成長や企業価値の向上を図っています。
葬祭業界のM&Aに関するよくある質問

葬祭業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。
理想の取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。
地方企業でもM&Aは可能ですか?
もちろん全国問わず、M&Aは可能です。
全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。
どうすればよい条件で会社を売却できますか?
いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。
業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。
負債を抱えていてもM&Aは実施できますか?
負債を抱えている場合でも。M&Aによる事業譲渡や売却は可能です。売却益を活用して負債を軽減したり、シナジー効果が期待される場合には、債務があっても買い手が見つかったりします。
ただし、買い手が価値を見出せなければ、候補が見つからない可能性もあります。負債を抱えている場合は、他社よりも魅力的な強みをアピールすることが重要です。
まとめ

葬祭業界では、後継者不足や競争の激化、コロナ禍をきっかけとした葬儀費用の低下などが問題となっている中で、同業種・異業種問わずM&Aが活発に行われています。
M&Aを通じて、葬祭業界では従業員の雇用維持や後継者問題の解消により、事業の継続が可能となります。
自社の収益力や財務状況をしっかりと把握したうえで、長期的な視点で最適なM&Aを目指しましょう。
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