CRO・SMO業界のM&A事情を詳しく解説!業界動向や事例もあわせて紹介
公開日:2025.03.19
2025.03.19
更新日:2025.10.31
2025.10.31
昨今、CRO・SMO業界は需要が高まっており、M&A取引が活発に行われるようになっています。
CRO・SMO業界では、新薬開発や技術の進歩、シェア拡大などを目的としてM&Aが注目されています。
では、具体的にCRO・SMO業界のM&A事情はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新のCRO・SMO業界のM&A事情を解説します。さらに、CRO・SMO業界におけるM&Aのメリットや事例も紹介しているため、M&Aを考えている方はぜひ参考にしてください。
オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。より良い評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。
また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。
まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。
CRO・SMO業界とは?業界の現状を解説

まず、CRO・SMO業界の動向として、市場規模と業界の課題を解説します。
M&Aを実施するうえで把握しておきたい前提事項となるため、ぜひ参考にしてください。
CRO・SMO業界の定義
CRO・SMO業界とは、新薬開発における臨床試験(治験)を支援する専門サービス産業です。
CRO(Contract Research Organization)は、製薬企業やバイオベンチャーから治験業務を受託し、試験計画の立案からデータ解析まで幅広く担います。
一方、SMO(Site Management Organization)は、医療機関で行われる治験の運営を支援し、治験コーディネーター(CRC)の派遣や事務作業の効率化を行います。
このように、CROは「製薬企業側」、SMOは「医療機関側」を支援する役割を持ち、両者が連携することで治験全体の効率化と品質向上を実現しています。
業界全体として、新薬をより早く安全に社会へ届けることを通じて、医療の発展に大きく貢献しているといえるでしょう。
CRO・SMO業界の動向
CRO・SMO業界は、社会のニーズや医療環境の変化に強く影響を受ける産業です。近年では、治験需要の増加を背景に市場は拡大していますが、その一方で専門人材の不足や業務品質の確保といった課題が顕在化しています。
また、国際共同治験の増加や規制の厳格化により、グローバル基準での対応力が求められるようになりました。さらに、ITやAIの活用が進み、電子カルテやデータ解析システムを用いた効率的な治験運営が広がっています。
こうした変化に柔軟に対応し、信頼性の高い治験体制を築ける企業こそ、今後の業界をリードしていく存在になると考えられます。
CRO・SMO業界の市場規模
日本CRO協会の「Annual Report 2025」によると、2024年度のCRO業界は49社が会員登録しています。総売上高は2,300億円で、前年の2,537億円から約9.3%の減少となりました。従業員数は18,658人で、前年より1,210人減少しています。
前年度までは右肩上がりの成長を続けていましたが、2024年度はやや調整局面に入りました。一方で、医薬品関連の受託業務が全体の約8割を占めており、今後も製薬会社からの委託需要は高水準で推移するとみられます。
製薬企業は新薬開発への投資を拡大しており、臨床試験の件数も増加傾向にあります。そのため、CRO業界全体としては中長期的に成長余地があると考えられます。
日本SMO協会の最新データ(2025年4月時点)によると、SMO業界の売上高は462億4,822万円で、全従業員数は5,208人。そのうちSMO業務に従事するのは4,106人となっています。前年度(2023年度)と比べると、売上はやや減少したものの、従業員数は増加しました。
SMO業界は、臨床試験を実施する医療機関を支援する役割を担っており、治験現場の効率化が求められています。今後も製薬会社の開発スピード向上や国際共同治験の増加に伴い、需要は一定水準で続くと予想されます。
近年はAIやDXを活用した創薬支援が進展しています。従来は医療機関内で行われていた治験も、現在では被験者の自宅で実施できる「バーチャル治験(DCT)」が広がりつつあります。こうした技術革新により、CRO・SMO業界はより柔軟な体制を求められるようになりました。
また、製薬会社のグローバル展開に伴い、国際共同治験が急増しています。CRO企業は海外対応力の強化を進めており、国内外での競争は一層激しさを増しています。
サービス・運営形態の多様化
CRO・SMO業界では、従来のモニタリング業務に加えて、データマネジメント、安全性評価、患者リクルート支援など業務範囲が拡大しています。特にSMOでは、独立型や医療機関との提携型など、運営モデルの多様化が進んでいます。
また、製薬企業や医療機関のニーズに合わせ、カスタマイズされたサービスを提供するケースも増加しました。たとえば、地域特化型のSMOや、ITを活用して治験データを効率的に管理するCROなどが代表的です。
こうした多様化は、治験の効率と質を高めると同時に、柔軟に対応できる企業が競争優位を獲得する要因となっています。
高齢化社会の進展
日本の高齢化が進むにつれ、高齢者向け医薬品や生活習慣病治療薬の開発需要が増しています。その結果、臨床試験でも高齢患者を対象とするケースが増加し、被験者確保が重要課題となっています。
また、高齢者特有の副作用リスクや併用薬の管理など、安全性確保の観点からも治験体制の工夫が必要です。加えて、医療費の増大に伴い、効率的かつ低コストで治験を進める仕組みが求められています。
高齢化はリスク要因であると同時に、新たな治療薬開発の大きな機会でもあり、業界の成長を左右する重要な要素といえるでしょう。
新型コロナウイルスの影響
コロナ禍では、多くの臨床試験が中断や延期を余儀なくされ、CRO・SMO業界も大きな打撃を受けました。一方で、リモートモニタリングや電子同意(eConsent)など、デジタルツールの導入が加速し、新しい治験運営モデルが定着しつつあります。
さらに、ワクチンや治療薬の開発過程においてCRO・SMOが果たした役割は大きく、社会的な存在意義が再認識されました。今後も感染症対応のノウハウを活かし、より柔軟で持続可能な臨床試験体制の構築が期待されています。
CRO・SMO業界のM&A動向とは?

CRO・SMO業界では、年々市場規模が増加しており、アウトソーシング率が高くなっています。その中で新規参入の企業も増え、今後は競争が激化していくでしょう。
また、本業界の企業数は他の業界と比較すると少ないですが、今後は異業種企業や外国企業の参入によって競争が激化すると見込まれ、シェア拡大を目的としたM&Aが増加すると考えられます。特に大手企業は国内での需要を確保しつつ、さらなるマーケットの拡大を目指して海外進出をし始めている状態です。
さらに、CRO・SMO業界を取り巻く医療業界は、買収や合併による業界再編が活発に行われています。そのため、業界の再編は今後も進むと予測できるでしょう。
同業種間でのM&A
同業種間でのM&Aは、CRO同士やSMO同士が統合することで規模を拡大し、経営基盤を強化する狙いがあります。施設ネットワークや被験者リクルート体制を一元化することで、治験の効率を高められる点が大きなメリットです。
例えば、モニタリング部門やデータ管理部門を統合すれば、人材やシステムを共有でき、重複するコストを削減できます。また、医療機関との契約や治験コーディネーターの配置を効率化することで、案件対応力の強化にもつながります。
さらに、統合によって国内外の大規模治験にも対応できる体制を整えられるため、グローバル競争での優位性確保に直結します。こうした動きは、業界全体の再編を促進する重要な要素といえるでしょう。
異業種間でのM&A
異業種間でのM&Aは、CRO・SMO業界が抱える課題を解決し、新しい価値を創出する手法として増加しています。特にIT企業やデータ解析会社との連携は、AIやビッグデータを活用した効率的な治験運営に直結する効果があります。
例えば、電子カルテやウェアラブル機器のデータを活用すれば、被験者の安全性をリアルタイムで管理でき、試験精度を高められるでしょう。また、製薬企業によるCRO・SMOの買収は、開発から治験までを一貫して担う体制を構築し、スピードと品質を両立する狙いがあります。
さらに、海外資本や異業種のノウハウを取り入れることで、新しいビジネスモデルの構築や収益基盤の多角化が可能となります。リスク分散を図りながら成長を目指すうえで、異業種間M&Aは今後も拡大していくと考えられるでしょう。
CRO・SMO業界のM&Aの流れ

CRO・SMO業界におけるM&Aの流れは、大きく分けて下記の3つのステップから構成されます。
1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
それぞれ詳しくみていきましょう。
Step1.M&Aの事前準備、助言会社の選定
まず、M&Aの事前準備とM&A助言会社を選定します。
事前準備として、M&A助言会社と秘密保持契約を締結し、初期的な資料を開示します。秘密保持契約とは、自社の秘密情報を他社に開示する場合に、その情報を秘密に保持することを締結する契約です。
その上で、売却戦略をM&A助言会社と策定し、買い手候補先企業を優先順位ごとに並べたロングリスト(※1)を作成します。
譲渡の目的を満たすストラクチャー(※2)の検討や、譲渡完了に至るまでの全体のスケジュールについても事前準備の段階で検討します。
また、この段階でM&A助言会社とエージェント契約を締結します。
M&A助言会社を選定する際に注意しておきたいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。
仲介とは、いわゆるマッチングサービスのことで、売り手と買い手の双方とそれぞれ仲介契約を締結します。M&Aの当事者双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできず、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。また、手数料は売り手と買い手の双方から受領します。
それに対してFAとは、M&Aを実行するためのアドバイスを提供するサービスのことで、M&Aの当事者一方のみから依頼を受けます。M&Aの相手方(買い手候補先企業を含む。)に対して、依頼者に対して提供するのと同様の業務を提供することはありません。M&Aの当事者一方のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
弊社では、売り手のみと契約を締結してM&Aを支援する専属エージェントサービス(売り手特化型FAサービス)を提供しており、手数料は依頼者である売り手のみから受領し、売り手の利益を最大化することを目指します。
また、譲渡戦略の策定と並行して、買い手候補先企業へ開示する資料準備も進めます。M&Aプロセスの初期に買い手候補先企業に対して開示する資料には、匿名の企業概要書(ティーザー(※3))、インフォメーション・パッケージ(※4)があります。
※1 ロングリスト:一定の条件で絞り込んだ買い手候補先の企業をまとめたリストのこと。
※2 ストラクチャー:M&Aを実行するための手段や方法のこと。
※3 ティーザー:匿名の企業概要書で、通常1枚から2枚で構成される資料のこと。
※4 インフォメーション・パッケージ:買い手候補先企業がM&Aを検討する際の参考資料。対象会社(事業)の魅力を伝え、買い手候補先企業が企業価値評価を実施できることを目的に作成される。
Step2.買い手候補先企業との接触、意向表明受領
次に、買い手候補先企業と接触します。
ロングリストに基づき、M&A助言会社が買い手候補先企業と接触し、ティーザーを開示します。その上で関心を示す相手に対して、秘密保持契約を締結した上でインフォメーション・パッケージを開示します。
対象会社(事業)の譲受を希望する買い手候補先企業は、売り手に対して意向表明書を提出します。意向表明書には、譲渡価格の水準や取引の前提条件、取引後の対象会社の運用方針などが記載されます。売り手はこれを検討・比較し、受け入れ(基本合意)可能かを判断します。
売り手においては、後述する詳細調査(デュー・デリジェンス:DD)のプロセスにおいて、対象会社の秘密情報が買い手候補先企業に開示されることになるため、DDを受け入れる前に納得感の得られる取引条件であることを確認することが非常に重要です。買い手候補先企業においても、DDにおける専門家起用の費用負担や多大な労力が生じるため、この段階で独占交渉権を求めることが一般的です。
そのため、基本合意を締結し、守秘義務や独占交渉権などを取り決めた上で、次のステップに進むことになります。
Step3.詳細調査(DD)、最終契約締結・クロージング
意向表明書を受理して基本合意書の締結をしたら、デュー・デリジェンス(DD)と呼ばれる詳細調査と最終契約締結・クロージングです。
M&Aにおいては、売り手と買い手との間に、情報の非対称性が必然的に生じます。この非対称性をできるだけ解消するために、買い手が実施する対象企業への調査がDDです。
買い手にとってDDには、以下のような目的があります。
・自社のM&A戦略に合致した事業かどうか詳細まで検討する
・定量化可能なDDの発見事項を、譲渡価格へ反映する
・定量化できないDDの発見事項を、最終契約書の条件へ反映し、リスクを遮断する
・M&Aの目的を達成するためのストラクチャーを検討する
・M&A実行後に必要な対応を明確化し、統合計画に反映させる
その後、最終契約締結に移ります。譲渡価格や契約条件を交渉し、双方が納得のいく形で契約を締結します。そしてM&A取引が実行され、対象の株式・事業の引き渡しをし、譲渡代金を支払って経営権の移転が完了します。
譲渡企業オーナーの譲渡を想定したより詳細なM&Aのプロセスは、以下の記事で解説していますので、ぜひご活用ください。
[M&Aのプロセス]
CRO・SMO業界のM&Aのメリットとは?5つを紹介

CRO・SMO業界でM&Aを実施するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
・事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
・仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
・シェアの拡大を見込める
・ブランド力、販売力を強化できる
・経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
それぞれ詳しくみていきましょう。
CRO・SMO業界のM&Aのメリット①:事業を継続でき、従業員の雇用を守れる
第三者への事業承継を選択せずに廃業を選択した場合は、従業員は職を失うことになり、新しい職を探す必要があります。また、経営者としては、従業員のために新しい職を見つけてあげるなどの対応をするケースも考えられます。
一方で、M&Aの実施により、従業員の雇用を継続でき、経営者は従業員に対する責任を果たせるでしょう。
CRO・SMO業界のM&Aのメリット②:仕入先・取引先への影響を最小限に抑えられる
事業承継において、廃業を選択した場合には、仕入先や取引先との契約を終了させる必要が出てきます。債権債務の整理をしたり、様々な影響が自社および取引先に波及します。
一方で、M&Aを実施する場合、一般的には既存取引先との契約関係は引き継ぐことが多く、廃業による影響を最小限に抑えられます。
CRO・SMO業界のM&Aのメリット③:シェアの拡大を見込める
中小企業は大手企業ほどのシェア獲得が難しいですが、大手企業とM&Aを行った場合、事業提携などによって販路を拡大できるようになります。
国内でのシェア拡大はもちろん、海外進出を図る企業が増えている中で、国内のみだったシェアを海外にも拡大できる可能性が高く、自社の力だけでは成し遂げられないこともできるようになるでしょう。
CRO・SMO業界のM&Aのメリット④:ブランド力・販売力を強化できる
CRO・SMO業界におけるM&Aの大きな魅力の一つは、ブランド力や販売力を強化できる点です。大手グループの傘下に入ることで、業界内での知名度や信頼性が高まり、新規案件の受注にも有利に働きます。
例えば、買い手企業が持つ製薬企業ネットワークや医療機関との取引基盤を共有できれば、これまで接点のなかった顧客層にも効率的にアプローチできるでしょう。さらに、広範な販売チャネルや海外拠点を活用することで、営業活動の効率化やグローバル展開の加速も期待できます。
こうしたシナジー効果によって、既存案件の拡大に加え、新規顧客の獲得や国際市場への進出が可能となり、業界内での競争力を大きく高められるといえます。
CRO・SMO業界のM&Aのメリット⑤:経営リスクを軽減し、事業承継をスムーズに進められる
CRO・SMO業界では、後継者不足や経営者の高齢化が進んでおり、M&Aはその有効な解決策として注目されています。買い手企業に事業を引き継ぐことで、企業の存続や従業員の雇用を守りつつ、経営リスクを軽減することが可能です。
特に中小規模の事業者では、経営者個人の保証や財務負担が大きな課題となるケースが少なくありません。M&Aによって大手グループの経営資源を活用できれば、リスク分散と経営基盤の安定化を同時に実現できます。
結果として、経営者は安心して次のステージへ進むことができ、企業は持続的な成長を目指す体制を整えられるでしょう。
CRO・SMO業界のM&Aの相場

CRO・SMO業界の相場は、一概にいくらと明言できません。その企業の売上やブランド力、立地などさまざまな要素から判断されます。
これまでM&A仲介会社では年買法といわれる簡便的な株式評価手法を用いて評価を実施することが一般的でした。これは純資産に営業利益の数年分を加算する簡単な計算方法であり、理解が容易な一方、実績ベースの評価で、加算される営業利益の年数も業界ごとに固定的なものとなります。
その結果、成長性のある事業ほど低く株式価値が算定されてしまうリスクがあります。正しく買い手の株式価値評価手法を理解することは、売り手オーナーが自身の利益を守るために重要です。
CRO・SMO業界のM&A実務において事業価値の算定には、大きく分けて2つの方法があります。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
インカムアプローチは、営業資産が生み出す将来キャッシュフローを評価の基礎とする方法です。代表的なディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法では、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて事業価値を試算します。
理論的に優れた方法ではあるものの、将来キャッシュフローの見積もりや割引率の計算は非常に難易度が高く、経験を積んだ専門家でないと試算が困難で、初見では理解しづらいのが大きな欠点でしょう。
本稿では「価値の概算を簡単に知る」ことを目的にしていますので、インカムアプローチの詳細な説明は割愛します。
マーケットアプローチは、市場における取引価格を参考にして事業価値を算定する方法です。具体的には、以下のような方法が存在します。
・類似会社比較法
・類似取引比較法
類似会社比較法は、評価する対象の企業の類似会社にあたる上場会社の企業価値と、営業利益や収益力(EBITDA)といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで、事業価値を算出する方法です。
具体的には、以下のように算定します。
EBITDA×業界相場の倍率(EBITDAマルチプル)=企業価値
(EBITDAマルチプル=上場類似会社の企業価値/上場類似会社のEBITDA)
EBITDAは、営業利益に減価償却費を足して算出されるものです。
また、類似会社は、業界が同じ上場企業を選定するのはもちろんのことですが、ビジネスモデルや収益構造、顧客の層などの類似性から選定するパターンもあります。類似会社をどのように選ぶかで算定結果は大きく依存します。
企業価値を算出したら、株式価値を算出しましょう。株式価値は、以下のように算出します。
企業価値-有利子負債+現金同等物=株式価値
第三者に譲渡する場合に、どの程度の価値がつくかを把握しておくことは重要なため、理解しておきましょう。
なお、マーケットアプローチには、類似会社比較法のほか、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法という方法が存在します。
しかし、参照する過去の取引における対象会社が非上場である場合、入手可能な財務数値が限定的であるため、同方法が中小企業のM&Aで利用されることは少ないのが現状です。
M&Aにおける価値の算定については、下記で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
[うちの会社、結局いくらで売れるの?~事業オーナーの疑問に答えるコラム①~]
また、自社の具体的な株式価値を知りたい場合には、株価シミュレーターを用意していますので、以下で試算可能です。ぜひご活用ください。
[株価シミュレーター]
CRO・SMO業界のM&Aのポイントとは?押さえておきたい3つを紹介

CRO・SMO業界でM&Aを実施する際に押さえておきたいポイントとして、下記の3つが挙げられます。
・適切なM&A助言会社を選定する
・自社の正当な収益力・財務状況を把握する
・AI・DX技術に対応する
それぞれ詳しく解説します。
CRO・SMO業界のM&Aのポイント①:適切なM&A助言会社を選定する
M&A助言会社に求められる能力は多岐にわたります。法務・会計・税務・ファイナンスに精通していること、誠実であること、そして顧客の立場に寄り添って助言を提供できる姿勢が求められます。さらに、M&Aにおける売り手・買い手双方の行動原理を理解し、それを交渉に活かせることも重要です。
真に顧客に寄り添える立場であるかを見極めるためには、売り手・買い手の双方から報酬を受け取る仲介会社ではなく、売り手と同じ立場で事業オーナーに助言する会社(FA)を選ぶことが大切です。
また、その会社に所属するアドバイザーの知識・経験・ノウハウなど、FAサービスの品質そのものも慎重に確認すべきポイントです。
CRO・SMO業界のM&Aのポイント②:自社の正当な収益力・財務状況を把握する
売り手にとって、自社をより良い条件で売却するために最も重要なのは、自社の正当な収益力と財務状況を正確に把握することです。
中小企業では、税務対策やオーナーの個人的な経費を費用計上しているケースが少なくありません。そのため、具体的な買い手候補へアプローチする前に、実質的な収益力を明確にし、貸借対照表上の現金化可能資産や非事業用資産を整理・確認しておく必要があります。
これにより、自社の本来の企業価値を正確に評価でき、交渉においても有利な条件を導きやすくなります。
CRO・SMO業界のM&Aのポイント③:AI・DXに対応する
近年の製薬業界では、AIやDXを用いた開発の効率化が重要となっています。新薬開発にAIを活用する動きも多く見られており、さらに今後は量子コンピューターによって医薬品の開発速度が飛躍的に加速すると見込まれています。
つまり、本業界でAI・DXを含め最先端のIT技術に対応できるかどうかは必然的に求められていることであり、対応できればM&Aにおいて強みとなるでしょう。
CRO・SMO業界のM&A売却事例6選

ここでは、CRO・SMO業界で実施されたM&Aの売却事例を紹介します。本記事では、下記の6つの事例を紹介します。
・ケアネット×Satt
・ナチュラリ×東北薬理研
・マラトンキャピタルパートナーズ×ファルマ
・ブラックストーン×シミック
・インテージHD×アルフレッサHD
・エムスリー×新日本科学 SMO
実際の取引を参考にして、自社の売却のために役立ててください。
CRO・SMO業界のM&A売却事例①:ケアネット×Satt
ケアネットは、2024年5月9日付でSattを買収し、全株式を取得しました。
ケアネットは、スペシャリティ医薬品のプロモーション支援サービスの安定成長のための事業基盤づくりに向け、スペシャリティ医薬品の治験という医薬品開発段階から製薬企業との取引関係構築・強化を重点開発方針の1つとして掲げています。
Sattは2009年に設立され、臨床研究領域で幅広い専門知識と経験を持つ人材を有しています。従来のCRO、SMOの枠にとらわれないサービスの提供を心がけている企業です。
本件M&Aによって、両社は協力してCRO事業のDX化を進め、治験プロセスにおける新しいソリューション開発に注力します。
また、ケアネットは臨床開発分野・臨床研究分野を問わず、治験支援業務を一気通貫で製薬企業より受託できる体制の構築やシードインキュベーション事業の推進も目指しています。
CRO・SMO業界のM&A売却事例②:ナチュラリ×東北薬理研
ナチュラリは、2023年4月7日付で東北薬理研を買収し、全株式を取得しました。
ナチュラリは、高度医療機器などの販売や東京PCR衛生検査所の運営などを行っています。
東北薬理研は2002年に設立されました。東北地方を中心とした地域密着型のSMOとして、臨床試験受託事業を展開している企業です。
本件M&Aによって、ナチュラリは東北薬理研の東北での事業基盤を強固なものとすることを目指します。また、東京PCR衛生検査所で培った経営資源を最大化すべく、首都圏における事業拡大を図っています。
CRO・SMO業界のM&A売却事例③:マラトンキャピタルパートナーズ×ファルマ
マラトンキャピタルパートナーズが運営するマラトン1号投資事業有限責任組合は、中小企業への投資・成長支援の中心革新基盤と共同で出資する特別目的会社を通じて、ファルマを買収、全株式取得していたことを2022年8月1日に発表しました。
マラトンキャピタルパートナ-ズは、中小企業との資本提携・M&Aに特化した、国内トップの中小企業支援実績を持つ投資のエキスパート集団です。創業者自身が0→1で事業を立ち上げたオーナー経験がある為、中小企業のオーナー様の気持ちを良く理解し二人三脚で伴走できるファンドを展開しています。
ファルマは2001年に設立された企業です。中枢神経薬を扱う東京23区のクリニックに特化して、被験者、治験責任医師や治験分担医師、治験事務局、CRA、医療機関の各部署との調整を担っています。
本件M&Aによって、マラトンキャピタルパートナーズは組織体制の強化を図っています。また、ファルマのさらなる事業成長に向けた支援も行います。
CRO・SMO業界のM&A売却事例④:ブラックストーン×シミック
ブラックストーンは2025年3月3日付で、シミック株式会社の株式の60%を取得し、同社を支配することになりました。
買い手のブラックストーンは、グローバルなプライベート・エクイティ・ファンドで、ヘルスケア・ライフサイエンス領域を戦略投資分野の一つとしています。
売り手のシミック株式会社は、1992年設立で、製薬企業向けの臨床試験を含めた医薬品開発支援(CRO)を幅広く手掛けてきた国内大手です。アジア展開や臨床開発全体のサポート体制を有しています。
本件 M&A によって、シミックはブラックストーンの持つ海外ネットワークやグローバル投資ノウハウを活用して、CROサービスの品質向上・付加価値の強化を図るとともに、将来的な株式上場を見据えた成長戦略を加速させることが期待されます。
CRO・SMO業界のM&A売却事例⑤:インテージHD×アルフレッサHD
アルフレッサホールディングスは、2024年6月17日付で、インテージヘルスケアが新設分割により設立予定の ArkMS 株式会社(新設会社)を通じて、インテージヘルスケアの CRO 事業を買収し、全株式を取得しました。
買い手のアルフレッサHDは、医薬品・検査試薬・医療機器の卸販売や調剤薬局の経営などを手掛けており、サプライチェーン全体を包括する医療関連事業を展開しています。
ミクスOnline
売り手のインテージヘルスケアは、マーケティングリサーチ/データサイエンス事業とともに、医薬品開発支援(CRO)/製造販売後調査(PMS)/安全性管理支援サービスなどを提供してきた企業です。CRO事業には長年の実績があり、国内での信頼基盤を持っています。
この取引により、アルフレッサは ArkMS を通じて CRO と PMS の機能を強化し、医薬品開発から販売後調査までのトータルな医療サプライチェーン体制を構築することが見込まれます。インテージ側は、データ利活用・マーケティング事業に集中できる体制に再編されます。
CRO・SMO業界のM&A売却事例⑥:エムスリー×新日本科学 SMO
エムスリーは2018年9月3日付で、新日本科学 SMO の全株式を取得し、完全子会社化しました。
買い手のエムスリーは、医師・医療従事者を対象とする専門情報サイト運営、「m3.com」などを中心に、治験支援サービスも含めたウェブ医療関連サービスを手掛ける企業です。
売り手の新日本科学 SMO は、2000年10月設立で、全国の大学病院等を含む約200施設と提携し、治験コーディネーター(CRC)の派遣や臨床試験支援業務を幅広く展開してきました。疾患領域は腎疾患・リウマチ・腫瘍学など多岐にわたります。
この M&A によって、エムスリーグループは提携施設数と CRC 人員の拡充を図り、治験支援体制の拡大および IT を活用した効率化をさらに推進すると考えられます。
CRO・SMO業界のM&Aに関するよくある質問

CRO・SMO業界でのM&Aにおいてよくある質問を紹介します。
理想の取引を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。
CRO・SMO業界のM&Aに関するよくある質問①:地方企業でもM&Aは可能ですか?
もちろん全国問わず、M&Aは可能です。
全国対応するM&A助言会社はありますし、買い手もまだ事業展開していない地域への進出を目的として、M&Aを戦略の一つとして活用することは一般的です。
CRO・SMO業界のM&Aに関するよくある質問②:どうすればよい条件で会社を売却できますか?
いくつかの留意点を押さえれば、よい条件で売却できる可能性は高まります。
業界によって、株式価値評価の相場が異なるため、M&A助言会社に相談し、企業評価を取得することから始めるのが、よい選択であると考えられます。
CRO・SMO業界のM&Aに関するよくある質問③:負債や保証から解消されますか?
M&Aによって事業譲渡を実施すれば、一般的には売り手側の事業や資産はすべて買い手側に引き継がれます。
その内容は負債や保証などまで及ぶため、売り手側の経営者が事業譲渡後も不安を抱える必要はありません。
まとめ

CRO・SMO業界では、国際共同治験への対応やAI・DXへの対応、国内外へのシェア拡大を目的としたM&Aが活発に行われています。
M&Aを通じて、従業員の雇用や取引先との関係を維持しながら、大手グループの傘下で販路を拡大することが可能です。
自社の収益力や財務状況をしっかり把握したうえで、AI・DXへの対応など、買い手側から魅力的と感じられる体制を整えてM&Aを進めましょう。
オーナーズ株式会社では、売り手に特化したFAサービスを展開しています。専属のエージェントがお客様の理想の取引実現に向けて、お客様のご希望に即したサービスをとことん提供いたします。より良い評価額での売却に向けたアドバイスを受けられるだけでなく、余計な仲介手数料を削減した案件成約も実現可能です。
また、具体的な買いニーズを持っている企業のほか、業界・買い手企業分析に基づき事業親和性の高い企業を買い手候補としてご提案します。大手金融機関や大手M&A仲介、M&Aマッチングサービスとも連携しているため、買い手探索のルートが豊富です。
まずは一度、弊社の無料相談サービスをご利用ください。
関連記事
-
業界別M&A
会計事務所業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31
-
業界別M&A
健康食品のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31
-
業界別M&A
スポーツ用品のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31
-
業界別M&A
EC業界のM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31
-
業界別M&A
保育サービスのM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31
-
業界別M&A
有料老人ホームのM&A相場はいくら?売却の手法やコツも解説!
2025.10.31
2025.10.31