事業売却後に買主から〈損害賠償〉を請求されるケースも!…好条件での事業継承の実現を阻む〈あまりに巧妙なトラップ〉(幻冬舎ゴールドオンラインへの掲載記事)

2024.07.16

公開日:2024.07.16

2024.07.16

2024.07.16

更新日:2024.07.16

2024.07.16

事業売却後に買主から〈損害賠償〉を請求されるケースも!…好条件での事業継承の実現を阻む〈あまりに巧妙なトラップ〉(幻冬舎ゴールドオンラインへの掲載記事)

売り手に過度な負担が強いられるリスク

売り手に過度な負担が強いられるリスク

「完全成功報酬」を謳ったM&A仲介会社も増えてきている昨今、会ってみて気に入らなければ辞めればいい、とオーナー経営者が気軽に買い手と会いやすい環境になっている現状があります。しかし、仲介会社や買い手からの提案に応じて、事業売却を進めることが、売り手が事業売却で失敗する大きな要因となっています。

ここでは、オーナー経営者が、買い手からの提案に応じる形で事業売却を進めた場合、売り手に過度な負担が強いられてしまうリスクについて、解説していきます。

多くのオーナー経営者にとって、事業売却は一世一代のイベントなので、当然ながら、勝手のわからないことばかりであるはずです。特に、専門業者であるM&A仲介会社や、M&A経験がある買い手企業と比較したとき、そこには大きな「情報格差」が存在するといえます。売却価格以外の条件も、M&Aの成否を分ける重要な位置付けですが、M&A仲介サービスは、あくまで中立の立場で、売り手と買い手をマッチングするサービス。条件交渉において、売り手企業を守る立場にはありません。

当社では、売り手企業を守るための役割として、「セカンド・オピニオン・サービス」を提供するケースもありますが、実際にセカンド・オピニオンを提供した案件においても、M&A仲介会社が支援するなかで、売り手企業に過度な負担が課されているケースが散見されます。

M&A仲介会社が採用する「株式譲渡契約書」のひな形自体が、買い手企業に有利になっており、売り手企業に過度なリスク負担を強いるものとなっているケースもあるため、注意が必要です。

ここで、最近の当社の支援案件から具体例を紹介しましょう。

事業売却後に損害賠償を請求されたB社のケース

B社は、ある大手M&A仲介会社の支援で事業売却を実現しました。ところが、無事に売却を実現できて安心していたのも束の間、譲渡から2ヵ月後に、買い手から損害賠償を請求されてしまいます。具体的には、「残業代の制度設計を買主の制度に変更した結果、未払賃金を支払うことになったので賠償せよ」というものでした。

本件において、対象会社と買い手企業における残業代の制度設計は異なるものでした。具体的には、対象会社の制度下においては、未払残業代が発生していなかったものの、買い手の制度に移行した場合には、未払残業代が発生するといった状況でした。

買い手は法務・労務に関するデュー・デリジェンスを実施し、売主も関連する情報開示を行なっていましたから、買い手はその事実を把握していたものと思われます。買い手としては、上記の未払残業代を価格交渉上の論点とはせず、事後の損害賠償請求を行う選択をしたのです。

これを可能にした原因は、株式譲渡契約書において、売り手を損害賠償請求から守る手当てをしていなかったことでした。

株式譲渡契約書では、当事者が取引相手に対して、一定の事実が真実あるいは正確であることを表明し、保証する「表明保証条項」が定められます。そして、表明保証違反が見つかった場合の責任が補償条項として定められます。簡単にいうと、当事者としての責任範囲を定めるものです。

本件で、M&A仲介会社がドラフトした株式譲渡契約書の補償条項においては、表明保証違反が見つかった場合に、売主が買い手に支払う損害賠償の上限額が定められていませんでした。

「デュー・デリジェンス等で買主が認識していた事項については補償の対象にしない」(アンチ・サンドバッキング)方法や、「買主の社内規則や制度への変更に伴い対象会社に発生する追加費用は除く」とする方法など、売り手の保証の範囲を制限する手当も考えられたでしょう。なお、買主が売主に対して、損害賠償請求をできる期間も無期限となっていました。

M&A仲介サービスは、あくまでも中立の立場で、売り手と買い手をマッチングするサービスです。売り手を守る交渉支援はその構造上、提供することができません。このことを理解せずにM&A仲介サービスを利用する場合、売り手オーナーの期待するサービスと、M&A仲介サービスが提供できる支援の現実との間に、大きな乖離が生じてしまうでしょう。

売り手が自分や会社を守るためには、売り手専属でM&Aを支援する「ファイナンシャル・アドバイザー(FA)」を起用することが、有効な選択肢といえます。

「最適な譲渡手法」が選択できないリスク

「最適な譲渡手法」が選択できないリスク

中小企業のM&Aにおいて、最も一般的な事業の譲渡手法は「株式譲渡」です。シンプルで迅速に実行できることが、当事者にとって、メリットといえます。営業ノルマを抱える仲介会社にとっても、株式譲渡はスピーディに成約を実現することができて使い勝手がよい手法です。

しかし、場合によっては譲渡手法を工夫することで、売り手が受領する対価の手残りが増加する効果が期待できることがあります。具体的には、会社分割を活用するケースや配当金、退職金を組み合わせた対価設計をすることなどが挙げられます。

ここでも忘れてはいけないのは、M&A仲介サービスは、中立の立場で売り手と買い手をマッチングするサービスだということです。買い手も顧客として支援する構造ゆえに、売り手のメリットを考えた助言や交渉支援はできません。ですから、仲介会社が売り手にとって最もメリットの大きい譲渡ストラクチャーを提案し、実行を支援してくれることは期待できません。こうした支援を求める場合には、譲渡手法に関する会社法や税法も熟知しているFAを起用する必要があるでしょう。

ここでも当社の直近の支援案件から具体例を紹介します。

譲渡対象から除外したい事業が存在するC社のケース

C社オーナーは後継者が不在であることを背景に、M&Aによる第三者への事業譲渡を検討していました。そんなときに、M&A仲介会社から具体的な買い手を紹介されます。

双方前向きに検討を進めていたものの、C社には、オーナーが譲渡対象から除外したい不動産や別事業が存在していました。そこで、C社オーナーは、譲渡を希望する事業だけを譲渡する方法がないか、と仲介会社に相談しました。ところが、その仲介会社の回答は、「資産をわけることはできない」「時間がかかるのであれば、買い手が降りると言っている」と、否定的なものでした。

そうした回答を受けて不審に思ったオーナーが、当社にセカンドオピニオンを求めて相談に来ました。当社としては、本件において、希望する事業だけを譲渡することを制限する事情はないと判断し、会社分割による譲渡スキームを提案しました。

本件はその後、当社の支援のもと、売却活動を仕切り直す運びとなりました。結果として当社が紹介する買い手への事業売却を進めることとなりましたが、譲渡ストラクチャーとしては、会社分割により譲渡対象外の資産および事業を分割し、分割した新会社は、資産管理会社として、今後の相続対策などに活用する運びとなりました。譲渡対象資産が減少した結果、C社オーナーに対する株式譲渡益課税も軽減されました。

譲渡スキームは、M&A支援会社と利益相反が生じやすいところです。M&A支援会社としては、分割を行わずにまとめて売却することで、仲介手数料を最大化することができます。また、会社分割に要する会社法上の手続きにかかる手間と時間を回避したい思惑も生じます。

依頼するM&A業者が、売り手企業オーナーのメリットを考えた譲渡手法をしっかり検討してくれているかどうかは、そのM&A支援会社が信頼できる業者であるかを評価するうえで、一つの重要な判断材料となるでしょう。

この記事の著者

RISONAL編集部(オーナーズ )

RISONAL編集部

売り手の理想のM&Aの実現に特化した専属M&Aエージェントサービスおよび事業オーナー向けの資産運用サービスを提供するオーナーズ株式会社

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