中小企業オーナーが知るべき「M&A仲介サービス」と「FA」の本質的な違い
公開日:2024.11.15
2024.11.15
更新日:2024.11.15
2024.11.15
同じ「M&A支援サービス」でも、仲介とFAの役割は全然違う
M&A仲介サービスは、中立の立場で売り手と買い手をマッチングする仕事です。一方でFAサービスは、売り手と買い手のマッチングのみならず、M&Aの当事者の利益を守り、追求する仕事です。
「M&Aアドバイザー」という言葉が仲介サービスでも使われていたりするので混乱する方も多いかと思いますが、中立の立場で売り手・買い手双方を支援するM&A仲介サービスと、当事者の一方を顧客として支援する立場であるFAとでは、その役割は大きく異なります。
M&A仲介サービスにおいては、売り手・買い手の双方を支援するために中立の立場を保たなければなりません。売り手と買い手で大きく利害が対立するM&A取引において、中立の立場から支援できることは限られます。ですから、売り・買いニーズのマッチングを行うことがサービスの中心となります。
他方、FAが当事者の一方を顧客として支援する場合には、M&Aの全プロセスにおいてその顧客の利益を守り、追求する責任が生じます。つまり、中立の立場で支援する仲介サービスと比較して、FAサービスにおいては顧客に対する支援や責任の範囲が大きく広がるのです。そして、顧客の利益を守り、追求する業務の遂行には、ビジネス、ファイナンス、法務、会計・税務、労務など幅広い知識を活かすことが求められます。FAサービスの供給が投資銀行業界で大企業の顧客向けに限られてきた背景はこのあたりにあります。
具体的な支援体制の違い
例えば、条件交渉。仲介サービスではその構造上、一方の当事者の利益のために交渉を行うことはできず、双方の妥協点を探る支援しかできません。FAが、価格交渉はもちろん顧客の権利・責任範囲などあらゆる条件について、顧客にとっての最善を勝ち取るための交渉支援を行うのと対照的です。
このほか、売り手支援という観点では、事業計画の策定支援や譲渡ストラクチャー分析などがFA特有の業務として挙げられます。事業計画の策定は、買い手に対して対象事業の将来性をアピールし、より良い条件を勝ち取るために重要です。譲渡ストラクチャー分析については、顧客の手取りを最大化し、かつ将来の資産形成・相続を見据えた場合にもメリットが取れる選択肢の検討が重要になります。
こうした業務は、いずれも顧客の利益を追求するFAとしての責任を果たすために行われるもので、早く、安く買いたい買い手を支援することとは著しく利益が相反するところです。
このほか、基本合意後のデューデリジェンスにおける支援体制も大きく異なります。デューデリジェンスのプロセスにおいては、売り手は買い手の投資意思決定に必要な資料や、質問に対する回答案を作成・準備する必要があります。当然、初めてM&Aを行う売り手にとっては非常に難易度の高いもので、スムーズな遂行には専門家による支援を必要とするところです。
しかしM&A仲介サービスにおいては、売り手のデューデリジェンス受け入れを伴走支援することは多くないようです。売り手側でそうした支援ニーズがある場合には、公認会計士などに業務が外注されているケースも見られます。
この背景にはM&A仲介サービスにはマッチング業務に特化した人材が多いこともありそうですが、そもそも双方を支援する仲介会社は、当事者の意思決定に影響を与えるデューデリジェンス業務に関与するべきではないでしょう。売り手側でデューデリジェンスの対象となる資料の作成に関与すること、あるいは買い手側でデューデリジェンスの実施に関与することは、情報操作や利益相反のリスクを高めます。
一方でFAは、当事者の利益を守り、追求する役割を担います。M&Aの全プロセスにおいて、顧客が滞りなく対応することができるようサポートを提供することも重要な仕事です。売り手が顧客である場合、効率的かつ効果的にデューデリジェンスの対応を進めていくために、買い手が聞きたいポイントや必要な情報を正しく解釈し、売り手の資料や回答の準備をサポートします。
仲介サービスが提供する「FA」もあるが…
このように、M&A仲介とFAは、両手、片手という構造以上に業務範囲が大きく異なるということがおわかりいただけたと思います。
中小企業のM&Aにおいては、「顧客のニーズに合わせて仲介もFAも対応します」という仲介業者や金融機関も増えてきています。ただ、「仲介サービスの片側だけをやる」ことをFAと呼んでいるケースも多く、今回お話ししたような本来的にFAに求められる役割を果たせているケースはまだ多くありません。
仮にM&A支援業者が故意・重過失によりFAとしての役割を果たせず、顧客に損害が生じた場合(当然に追求できる利益を逸した場合も含まれます)には、顧客から損害賠償を請求されるリスクがあります。このことは、FAサービスを提供する業者もしっかり認識をしておくべきでしょう。顧客が仲介サービスに難色を示したために代案としてFAサービスを提案するケースも増えてきていますが、従来の仲介サービスと同様の支援では、FAとしての義務を果たせないリスクがあります。
サービス利用者としては一見、業者を見分けにくいところですが、その業者が本来FAに求められる機能を果たせるのか、あるいは仲介サービスの範疇において片手を支援するだけなのかを見分けるポイントがあります。それは、その業者のもともとのサービスがM&A仲介なのか、あるいはFAなのかというシンプルなものです。それだけ2つのサービスは本質的に異なるものであって、FAに本来求められる役割を果たすことの難易度が高いということは知っておいていただければと思います。
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