株主間契約とは?M&Aでの役割や主な条項、注意点を売り手目線で解説
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- M&Aの基礎
公開日:2026.07.02
2026.07.02
更新日:2026.07.02
2026.07.02
M&Aで会社の株式をすべて売却せず、一部を手元に残したり、買い手や投資家と共同で経営を続けたりする場合に、株主間契約が結ばれることがあります。株主間契約とは、複数の株主が、議決権行使、役員指名、株式譲渡、情報開示、出口条件などについて、あらかじめ取り決めておく契約です。
特に売り手にとっては、株主間契約の内容が、残した株式に関する権利、経営関与、将来の出口を左右します。条項を曖昧にしたまま結ぶと、少数株主として発言権や出口を確保しにくくなることがあります。
本記事では、M&Aで株主間契約が必要になる場面や主な条項に加え、定款・種類株式・株主総会決議、結ぶ際の注意点まで解説します。
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株主間契約とは
株主間契約とは、ある会社の複数の株主が、会社の運営、株式の取り扱い、情報開示、出口条件などについて、株主同士で取り決める契約です。議決権をどう行使するか、株式を譲渡する際にどのような制限を設けるか、配当方針、役員指名、重要事項の同意、情報提供をどうするかなど、さまざまな事項を定めます。
会社の基本的なルールは、定款や会社法で定められています。ただし、それだけでは、株主同士の細かな取り決めや、特定の株主の権利までは十分にカバーできないことがあります。株主間契約は、こうした定款や会社法だけでは調整しきれない株主間の事項を、株主間の契約として補う役割を持ちます。ただし、契約当事者以外には原則として効力が及びません。
M&Aでは、売り手が株式の一部を残したり、買い手、投資ファンド、共同出資者などと共同で経営を続けたりする場合に、株主間契約が結ばれます。複数の株主が関わる状況で、各株主の権利や義務、会社の運営方針を明確にしておくことで、後の対立やトラブルを防ぎやすくなります。特に少数株主となる売り手にとっては、自らの権利や出口を守る重要な契約になります。
M&Aで株主間契約が必要になる場面
株主間契約は、M&Aの中でも、複数の株主が残る場面や共同経営が続く場面で検討されます。どのような場面で結ばれるかを知っておくと、自社に関係するかを判断しやすくなります。主な場面は以下の通りです。
- 株式の一部を譲渡して共同経営・資本提携を行う場合
- 投資ファンドに過半数または一部株式を譲渡して経営に残る場合
- 合弁会社を設立・運営する場合
それぞれを順に解説します。
株式の一部を譲渡して共同経営・資本提携を行う場合
売り手が株式の一部だけを譲渡し、買い手と共同で経営を続ける場合に、株主間契約が結ばれることがあります。資本提携や資本業務提携のように、一定の独立性を保ちながら協力する関係でも用いられることがあります。複数の株主が会社に関わるため、議決権や経営への関与の仕方を、あらかじめ定めておく必要があります。
売り手としては、一部を残して共同経営に移る場合、残した株式に見合う発言権、情報取得権、出口をどう確保するかが重要になります。資本提携の進め方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
投資ファンドに過半数または一部株式を譲渡して経営に残る場合
投資ファンドに株式の過半数または一部を譲渡し、売り手の経営者が引き続き経営に残る場合にも、株主間契約が結ばれることがあります。ファンドが過半数を取得する場合には経営上の主導権を持つことが多い一方、残った経営者の役割、報酬、権限、退任時の株式処理、将来の売却条件を、契約で定めます。両者の関係を整理する取り決めです。
売り手としては、過半数を手放した後も、自社にどこまで関与できるかを契約で確認しておくことが重要です。投資ファンドへの譲渡については、以下の記事でも詳しく解説しています。
事業売却の前に知るべき…買い手が投資ファンドだと「過半数の株式取得」が基本条件になる理由
合弁会社を設立・運営する場合
複数の会社が出資し合って合弁会社を設立する場合にも、株主間契約が結ばれます。各社の出資比率、役員指名、重要事項の同意、利益分配、資金拠出、デッドロック時の対応などを定めます。意見が対立した場合の解決方法を、あらかじめ取り決めておくこともあります。
売り手としては、合弁の形で事業を続ける場合、出資比率だけでは決まらない権限や出口条件を、契約で補っておくことが重要です。
株主間契約で定める主な条項
株主間契約では、株主の権利、会社運営、株式譲渡、情報開示、出口条件に関わるさまざまな条項を定めます。どのような条項があるかを理解しておくと、自社に必要な保護条項を判断しやすくなります。主な条項は以下の通りです。
- 議決権行使・重要事項の同意・取締役の指名
- 株式譲渡制限・先買権・譲渡承認
- 共同売却権と強制売却権
- 買取請求権(プットオプション)
それぞれを順に解説します。
議決権行使・重要事項の同意・取締役の指名
議決権行使、重要事項の同意、取締役の指名に関する条項です。事業計画、借入、役員選任、株式発行、M&A、重要資産の処分などについて、どの株主の同意が必要かを定めたり、各株主が指名できる取締役の人数を決めたりします。出資比率だけでは決まらない経営への関与の度合いを、契約で調整するものです。
売り手としては、少数株主になっても一定の重要事項に関与できるよう、議決権や取締役の指名に関する取り決めを確認することが重要です。一定の重要事項について、自社の同意を必要とする拒否権・同意権を設けることがあります。
株式譲渡制限・先買権・譲渡承認
株式譲渡の制限、譲渡承認、先買権を定める条項です。株主が株式を第三者に売る前に、既存株主または会社が優先的に買い取れるようにする取り決めです。これにより、想定外の第三者や競合会社が株主に加わることを防ぎ、株主の構成を保ちやすくなります。
売り手としては、他の株主が株式を勝手に第三者へ譲渡できないようにする一方で、自社が株式を売りたいときの制約も理解しておくことが重要です。譲渡制限や先買権は、自社が将来株式を売却する際の自由度にも影響します。
共同売却権と強制売却権
共同売却権(タグアロング)と強制売却権(ドラッグアロング)に関する条項です。共同売却権は、ある株主が株式を第三者に売却する際に、他の株主も同じ条件で一緒に売却できるようにする権利です。強制売却権は、一定の条件を満たす多数株主等が第三者へ売却する際に、他の株主にも同条件での売却を求められる権利です。
売り手としては、共同売却権が、多数株主や買い手が将来売却する際に、自社も同条件で売却できる出口になる点を理解しておくことが重要です。一方で、強制売却権は、自社の意向にかかわらず売却を求められる可能性があるため、条件を慎重に確認する必要があります。
買取請求権(プットオプション)
買取請求権(プットオプション)は、株主が保有する株式を、あらかじめ定めた条件で他の株主または会社等に買い取るよう求められる権利です。一定の期間が過ぎた場合や、特定の事由が生じた場合に、株式を売却して資金を回収できる出口を確保するために設けます。少数株主の出口を確保する手段の一つです。
売り手としては、買取請求権が、残した株式を将来現金化するための出口になる点を理解しておくことが重要です。いつ、誰に、どの価格算定方法で、どの手続きにより買い取ってもらえるかを、契約で明確に定めておく必要があります。
株主間契約と定款・種類株式との違い
株主間契約は、定款や種類株式と混同されやすい仕組みです。それぞれ効力や役割が異なるため、違いを理解しておくことが重要です。主な違いは以下の通りです。
- 株主間契約と定款の違い
- 株主間契約と種類株式の違い
それぞれを順に解説します。
株主間契約と定款の違い
株主間契約と定款は、効力の及ぶ範囲が異なります。定款は会社の根本規則であり、会社や株主を拘束する基本的なルールです。これに対して株主間契約は、原則として契約当事者である株主間で効力を持つ取り決めです。当事者間の合意として、定款より柔軟に内容を定められる一方、会社や第三者に対する効力には限界があります。
売り手としては、株主間契約が契約を結んだ株主だけを拘束する点を理解しておくことが重要です。契約に加わっていない株主や第三者には、原則として効力が及ばないため、誰を当事者にするかも確認する必要があります。
株主間契約と種類株式の違い
種類株式は、会社法に基づいて、剰余金の配当、議決権、取得条項などについて異なる内容を定めた株式を発行する仕組みです。定款に内容を定め、必要な登記を行うことで、株式そのものに異なる権利内容を持たせます。これに対して株主間契約は、株式そのものの内容を変えるのではなく、契約当事者間の合意として権利や義務を定める点が異なります。
売り手としては、種類株式は定款・登記を通じて株式自体の内容として効力を持つ一方、株主間契約は原則として契約当事者間の債権的な約束にとどまる点を理解しておくことが重要です。どの方法を組み合わせて自社の権利を守るかは、状況に応じて検討する必要があります。
株主間契約を結ぶ際の注意点
株主間契約は、内容次第で、少数株主となる売り手の立場を左右します。結ぶ前に、注意したい点を押さえておくことが重要です。主な注意点は以下の通りです。
- 残す株式の権利・情報取得・同意権を守る条項を入れる
- 将来の出口条件と価格算定方法を定める
- 強制売却権や買取条項の発動条件に注意する
それぞれを順に解説します。
残す株式の権利・情報取得・同意権を守る条項を入れる
株主間契約では、残した株式の権利を守る条項を入れておくことが重要です。重要な経営判断への関与や、配当方針、情報提供を受ける権利、重要事項への同意権などを定めておきます。少数株主は、契約上の保護がないと重要な意思決定に関与しにくいため、契約で関与の余地を残します。
売り手としては、どの事項に自社の同意を必要とするかを、具体的に定めておくことが重要です。権利の範囲が曖昧だと、経営に関与できないまま、自社の意向に反する重要決定が進む可能性があります。
将来の出口条件と価格算定方法を定める
残した株式を将来どう現金化するか、出口となる条件を定めておくことも重要です。買取請求権や共同売却権など、株式を売却して資金を回収できる手段を契約に入れておきます。出口の定めがないと、株式を売りたくても売れない状態になることがあります。
実際に、当社の調査では、M&A経験者の9割以上が取引に何らかの後悔を感じており、その背景として売り手と買い手の情報格差が示されています。売り手としては、出口の条件を曖昧にせず、いつ、誰に、どの価格算定方法で売却できるかを契約で明確にしておくことが重要です。
※参考:PR TIMES「M&A経験者の9割以上が『後悔あり』。売り手と買い手の情報格差がトラブルの引き金に」
強制売却権や買取条項の発動条件に注意する
強制売却権(ドラッグアロング)、コールオプション、退任時の強制買取など、自社の意向にかかわらず株式売却を求められる条項には、注意が必要です。条件によっては、想定しない時期、価格、相手方で株式を手放さなければならなくなる可能性があります。発動の条件や、売却価格の決め方を確認しておくことが重要です。
売り手としては、強制売却の条項がある場合、その発動条件、価格算定方法、支払時期、対象株式、買主候補の条件が自社にとって過度に不利になっていないかを確認することが重要です。条項の文言は、弁護士などの専門家に確認することが望ましいです。
残す株式の権利や出口を、自社にとって過度に不利でない形で株主間契約に反映するには、売り手の立場で条件を検討し、弁護士と連携して交渉できる支援者がいると進めやすくなります。売り手専属のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
まとめ
株主間契約とは、複数の株主が、議決権や株式の譲渡などの事項についてあらかじめ取り決める契約です。M&Aでは、売り手が株式の一部を残したり、ファンドに過半数を譲渡して残留したりする場面で結ばれ、少数株主となる売り手の権利や出口を守る役割を持つ場合があります。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで判断することが重要です。
- 残す株式の権利を守る条項を、具体的に契約へ入れること
- 買取請求権、共同売却権、強制売却権の発動条件、価格算定方法など、将来の出口条件を定めること
- 強制売却権など、自社に不利な条項の発動条件を確認すること
- 定款、種類株式、株主間契約の違いを理解し、必要に応じて組み合わせて権利を守ること
株主間契約は、内容次第で、少数株主となる売り手の権利と出口を左右します。提示された契約をそのまま受け入れるのではなく、自社にとって不利な条件がないかを見極めることが欠かせません。残した株式の権利や出口を曖昧にしないためには、早い段階から売り手の立場で支援できる専門家と連携し、条項の確認から交渉までを一緒に進めていくことが、納得のいくM&Aにつながりやすくなります。
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