アーンアウト条項とは?税務・会計処理や契約上の注意点を売り手目線で解説
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- M&Aの基礎
公開日:2026.07.02
2026.07.02
更新日:2026.07.02
2026.07.02
M&Aで会社を売却する際、買い手から「アーンアウト条項」を提示されることがあります。アーンアウト条項とは、譲渡後の一定期間に、対象会社または譲渡対象事業が契約で定めた業績目標を達成した場合に、売り手が対価の一部を追加で受け取れる取り決めです。譲渡対価の一部を、将来の業績や一定の成果に連動させる仕組みといえます。
特に売り手にとっては、アーンアウト条項を受け入れるかどうかが、最終的な受取額や手取りに影響します。条件次第では、想定した対価を受け取れないこともあり、通常の一括対価の株式譲渡とは異なる税務・会計・契約上の論点が生じる場合があります。
本記事では、アーンアウト条項の仕組みと用いられる背景に加え、税務や会計処理、契約条項の考え方、注意点まで解説します。
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アーンアウト条項とは
アーンアウト条項とは、M&Aで会社や事業を譲渡した後、一定期間内に定めた業績目標を達成した場合に、売り手が、条件達成時に追加対価を受け取れる可能性がある取り決めです。英語ではEarn-out Clauseと呼ばれ、譲渡時に対価の全額を支払うのではなく、将来の業績における一定の成果に応じて、追加対価を支払う形をとることがあります。
M&Aでは、譲渡時に合意した対価が支払われるケースが多い一方で、分割払い、価格調整、エスクロー、アーンアウトなどが組み合わされる場合もあります。これに対してアーンアウト条項では、クロージング時などに支払う基本対価に加え、譲渡後の業績が条件を満たした場合に追加の対価が支払われます。譲渡対価の一部を、将来の業績や成果に連動させる点が特徴です。
アーンアウト条項は、売り手と買い手で会社の将来価値の見方が分かれるときや、成長途上の事業を譲渡するときに用いられることがある仕組みです。買い手は将来業績の不確実性を一部調整でき、売り手は将来の成長を追加対価として反映できる可能性があります。一方で、条件の設計や税務の取り扱いには、専門的な検討が必要になります。
アーンアウト条項が用いられる背景
アーンアウト条項は、どのようなM&Aでも使われるわけではありません。売り手と買い手の評価ギャップや将来業績の不確実性を調整する場面で、選択肢になる仕組みです。主に用いられる背景は以下の通りです。
- 売り手と買い手の評価ギャップを埋める
- 将来の不確実性を価格に反映する
- 譲渡後の成長を追加対価に反映できる場合がある
それぞれを順に解説します。
売り手と買い手の評価ギャップを埋める
アーンアウト条項が用いられる背景の一つに、売り手と買い手の評価ギャップがあります。売り手は将来の成長を評価に反映したい一方、買い手は将来業績の不確実性を踏まえて慎重な価格を提示することがあります。この差を、将来の業績に連動した追加対価で調整する方法です。
売り手としては、自社の将来性に自信がある場合、アーンアウト条項によって評価ギャップを調整できる可能性があります。会社売却価格・譲渡対価の決まり方を理解しておくと、提示された条件が妥当かを判断しやすくなります。価格の決まり方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
将来の不確実性を価格に反映する
将来の業績が読みにくい事業では、譲渡時点で将来成長分をどこまで価格に反映するかが争点になることがあります。新規事業や、特定の取引先・商品に業績が左右される会社などが当てはまります。アーンアウト条項は、こうした不確実性を踏まえ、将来の結果に応じて追加対価の有無や金額を調整する役割を持ちます。
売り手としては、不確実性が高い事業ほど、買い手が将来成長分を一括対価に織り込むことに慎重になる場合がある点を理解しておくことが重要です。将来の成果次第で追加の対価を得られる可能性がある仕組みは、こうした場面で折り合いをつける手段になります。
譲渡後の成長を追加対価に反映できる場合がある
アーンアウト条項は、譲渡後の成長分を追加対価として受け取れる可能性がある仕組みでもあります。譲渡時の評価に将来の成長がすべて織り込まれていない場合、契約上の目標を達成すれば、定められた算定方法に基づき追加対価を受け取れる場合があります。成長途上の企業、新規事業、業績変動が大きい事業などで検討されることがあります。
売り手としては、譲渡後も一定期間、売り手が経営や事業運営に関与する条件が置かれる場合がある点を理解しておくことが重要です。追加の対価を得るには、譲渡後の役割、権限、雇用・委任関係、業績達成への関与範囲を明確にする必要があります。
アーンアウト条項のメリットとデメリット
アーンアウト条項には、売り手と買い手それぞれにメリットとデメリットがあります。立場によって受ける影響が異なるため、両面を理解しておくことが重要です。主な内容は以下の通りです。
- 売り手側のメリットとデメリット
- 買い手側のメリットとデメリット
それぞれを順に解説します。
売り手側のメリットとデメリット
売り手にとってのメリットは、将来の業績を追加対価に反映し、基本対価に上乗せして受け取れる可能性がある点です。一方でデメリットは、目標を達成できなければ追加の対価を受け取れず、売り手が期待した総額に届かない可能性がある点です。
売り手としては、追加の対価が確実に得られるとは限らない点を理解しておくことが重要です。譲渡後の業績は、買い手の経営方針や市場環境にも左右されます。基本対価と追加対価の割合をどう設定するかが、判断の分かれ目になります。
買い手側のメリットとデメリット
買い手にとってのメリットは、クロージング時の支払額を抑え、将来業績の不確実性を一部調整できる点です。業績目標が達成された場合に追加で支払う設計にすることで、将来成長分の評価リスクを抑えやすくなります。一方でデメリットは、業績の測定や条件の管理に手間がかかり、売り手との間で、業績指標の算定方法や経営方針をめぐる認識のずれが生じやすい点です。
売り手としては、買い手がリスクを抑える目的でアーンアウト条項を求めることを理解しておくと、買い手の意図をつかみやすくなります。買い手の意図を踏まえたうえで、自社に過度に不利な条件にならないよう、指標・期間・支払上限・経営関与の範囲を確認することが重要です。
アーンアウト条項で定める主な内容
アーンアウト条項では、追加対価をどのような条件で支払うかを、契約の中で具体的に定めます。条件が曖昧だと、達成判定、算定方法、支払時期をめぐるトラブルにつながる可能性があります。主に定める内容は以下の通りです。
- 業績指標と目標水準
- 対象期間と支払条件
- 条項作成時の確認ポイント
それぞれを順に解説します。
業績指標と目標水準
アーンアウト条項では、追加対価の支払いを判断する業績指標と、その目標水準を定めます。指標には、売上高や営業利益、EBITDA(利息・税金・減価償却費および無形資産償却費控除前利益)などが用いられます。どの指標をいくらの水準で達成すれば支払われるかを、明確にしておきます。
売り手としては、達成可能性だけでなく、買い手側の会計処理や費用配賦の影響を受けにくく、客観的に測定しやすい指標を選ぶことが重要です。たとえば利益は会計上の調整の影響を受けやすいため、売上高などのほうが測定しやすい場合があります。どの指標が妥当かは、専門家と検討することが望ましいです。
対象期間と支払条件
業績を測る対象期間と、達成した場合の支払条件も定めます。対象期間は案件によって異なりますが、譲渡後1〜3年程度で設計されることがあります。支払額の算定方法や支払いの時期、上限額などを取り決めます。期間が長いほど、業績が外部要因に左右される度合いも高まります。
売り手としては、対象期間と支払いの時期を、売り手の関与範囲や市場環境を踏まえ、達成可能性と納得性のある範囲で設定することが重要です。期間が長すぎると、売り手の努力だけでは左右できない要因で目標を逃すリスクが高まります。支払いの条件は、できるだけ具体的に定めておくことが大切です。
条項作成時の確認ポイント
アーンアウト条項は、業績指標・対象期間・算定方法・支払額を組み合わせて記載します。たとえば、対象期間、業績指標、算定方法、会計基準、支払上限、支払時期、紛争時の確認方法などを明確に定める必要があります。実際の文言は、案件ごとに条件が異なります。
売り手としては、記載例をそのまま流用せず、自社の状況に合わせて条件を定めることが重要です。条項の文言があいまいだと、達成の判断や支払いをめぐって認識のずれが生じます。実際の契約文言は、弁護士、税理士、公認会計士などと連携し、自社の状況に合わせて設計することが前提になります。
アーンアウト条項を導入する際の注意点
アーンアウト条項は、設計を誤ると売り手が想定した追加対価を受け取れないリスクがある仕組みです。受け入れる前に、起こりうるリスクを把握しておくことが重要です。主なリスクは以下の通りです。
- 業績指標が買い手側の会計処理・経営判断に左右されるリスク
- 譲渡後の役割・権限をめぐって摩擦が生じるリスク
- 想定どおりに対価を受け取れないリスク
それぞれを順に解説します。
業績指標が買い手側の会計処理・経営判断に左右されるリスク
アーンアウト条項では、追加対価の判断に使う業績指標が、譲渡後の買い手の経営によって左右されます。買い手側の費用配賦、会計方針、投資判断、組織再編などによって、利益などの指標が目標に届きにくくなることがあります。指標の選び方や測定方法があいまいだと、こうしたリスクが高まります。
売り手としては、買い手側の裁量の影響を受けにくい指標を選び、測定方法を契約で明確に定めることが重要です。指標の算定ルールや、譲渡後の経営の進め方について、あらかじめ取り決めておくことが望ましいです。
譲渡後の役割・権限をめぐって摩擦が生じるリスク
追加の対価を得るために、売り手が譲渡後も一定期間、経営に関与する場合があります。このとき、業績目標の達成を優先するあまり、買い手の新しい経営方針と対立したり、売り手の追加対価獲得と買い手の経営判断の利害が衝突したりすることがあります。譲渡後の役割や権限を明確にしておかないと、摩擦が生じます。
売り手としては、譲渡後にどこまで経営に関与し、どこから買い手に委ねるかを、事前に取り決めておくことが重要です。関与の範囲があいまいなまま進めると、追加対価の達成条件や売り手の貢献範囲をめぐって争いになりやすくなります。
想定どおりに対価を受け取れないリスク
アーンアウト条項では、業績目標を達成できなければ、追加の対価を受け取れません。市場環境の変化や、買い手の経営判断など、売り手の努力だけでは左右できない要因で目標を逃すこともあります。売り手が期待した総額を、結果として下回ることがあります。
実際に、当社の調査では、M&Aにおける売り手の不安として「売却後のトラブル」が上位に挙げられています。アーンアウト条項は売却後に結果が変わる仕組みであるだけに、売り手としては、達成できなかった場合も想定し、基本の対価と追加の対価のバランスを慎重に判断することが重要です。
※参考:PR TIMES「トラブル報道が増加。M&Aにおける最大の不安は『売却後のトラブル』」
アーンアウト条項のように条件設計と税務が絡む交渉では、売り手側の立場で条件を検証し、税務・法務の専門家と連携できる支援者がいるかどうかは、結果に影響します。売り手専属のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割については、以下の記事でも詳しく解説しています。
M&AにおけるセルサイドFAとは?業務内容や仲介との違いも解説
まとめ
アーンアウト条項とは、M&Aで会社を譲渡した後、業績目標の達成に応じて対価の一部を追加で受け取る取り決めです。売り手と買い手の評価ギャップを調整する一方で、税務や会計処理、条件の設計には専門的な検討が必要になります。
特に売り手にとっては、以下のような論点を踏まえたうえで判断することが重要です。
- 追加対価は確実ではなく、目標を達成できなければ受け取れないこと
- 業績指標は、買い手側の裁量の影響を受けにくく、測定方法が明確なものを選ぶこと
- 譲渡後の経営の関与範囲や支払条件を、契約で明確に定めること
アーンアウト条項は、条件の設計と税務の見極め次第で、売り手にとって追加対価を得る機会になる一方、条件次第では受取額が想定を下回る仕組みです。提示された条件をそのまま受け入れるのではなく、自社にとって妥当かを検証することが欠かせません。納得のいく結果でM&Aを実現するためには、早い段階から売り手の立場で支援できる専門家と連携し、条件の交渉から税務の確認までを一緒に進めていくことが、不利な条件を避ける判断につながりやすくなります。
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